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涙のシングルス敗戦後、急遽ダブルスに起用された柴原瑛菜。青山修子とのペアでつかんだ歓喜の勝利【BJK杯総括】<SMASH>

内田暁

2025.04.14

BJK杯ファイナル予選のカナダ戦で、杉山監督(左)が柴原(右)のプレーの質の高さを買い、明暗分けるダブルスへ送り出した。写真:田中研治(THE DIGEST写真部)

 思えば今回ほどに、"采配"や"選手起用"に注目が集まった女子テニスの国別対抗戦「ビリー・ジーン・キング・カップ(BJK杯)」も少なかったかもしれない。

 日本代表メンバーは、シングルス1が世界51位の内島萌夏。ランキング上で2番手は104位で初選出の伊藤あおいで、柴原瑛菜がそれに続いた。

 ダブルスでは、日本代表通算勝利数史上2位の青山修子がスペシャリストとしてどしりと構え、青山とツアーでも組む穂積絵莉が、ダブルス要因として選出された。ただ青山がその長いキャリアの中で、最も良い戦績を得た時の相棒は、柴原だ。また柴原は数字上ではシングルスの3番手だが、団体戦や日本代表の実績と経験では当然ながら、伊藤を大きく上回る。

 シングルスの2番手は誰が務めるのか? そしてダブルスのペアリングは? そのいずれの命題においても、キーパーソンは、柴原だった。

 東京で4月11日から13日にかけて行なわれた「BJK杯ファイナル予選」は、9月に中国で行なわれる「BJK杯ファイナルズ」への出場権を懸けた最終決戦。日本、カナダ、ルーマニアが総当たりで戦い、上位1カ国のみが切符を手にする。いずれのチームもシングルス2試合、ダブルス1試合で対戦し、先に2勝した方が勝利国に。

 なお対戦順は、"シングルス2、シングルス1、ダブルス"に固定されている。つまりシングルス2は常に先鋒を務め、そうして星を分け合った場合、チームの命運は必ずダブルスに委ねられる。
 
 迎えた、12日の対ルーマニア戦――。

 日本開幕戦のコートに立ったのは、柴原だった。杉山愛監督は、起用理由を次のように説明する。

「すごく頭を悩ませるところではありますが、シングルス2は最初に出てくるので、チームの雰囲気を作る。彼女の底抜けに明るいキャラクターが、太陽のようにいつもチームに光を与えてくれる。今回もその部分を期待し、柴原選手を起用しました」

 その監督の期待に、柴原は完璧に答えた。快音響かせコーナーに刺さる高速サービスは、5000人超えの観客の感嘆の声を誘う。ダブルスで培った自らポイントを奪いにいく快活な攻撃性は、チーム一丸となり前に進む勢いを生む。ルーマニア戦での3勝は、先鋒を務めた柴原の力が大きかったのは間違いない。

 だからこそ、この日の夜...杉山監督は柴原に、「明日もシングルス、お願いね」と伝えたという。

 翌日(13日)に対戦するカナダのシングルス2が、18歳のビクトリア・エムボコなのは、ほぼ確実。そして、日本チームの中で唯一エムボコと対戦があり、しかも2連勝しているのが、伊藤だ。その相性を思えば、伊藤の選択肢も当然あったはず。実際に杉山監督も、後に「直接対決で伊藤選手が勝っているので、本当に頭を悩ませた」と明かした。

「ただやはり昨日のルーマニア戦で、あの緊張感が高まる中でも素晴らしく戦い切り、尻上がりに良くなっていた柴原選手のプレーの質の高さを買った」

 米国カリフォルニア生まれで、もともとはアメリカテニス協会の全面サポートを受けて育った柴原。それでも2020年東京五輪を控え、日の丸を背負うために日本国籍を選んだ柴原の"チーム・ジャパン"への情熱に、杉山監督は賭けた。
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勝敗分けるダブルスに「いけます!」と柴原