海外テニス

「良い選手は変化を恐れない」殿堂入りしたレジェンドコーチの2人が、全豪テニスファイナリストにもたらした変化と進化

内田暁

2020.02.01

殿堂入りを発表する式典に参加したマルチネス(左)とイバニセビッチ(右)。(C)GettyImages

「コーチと選手は、カップルみたいなもの。誰だって、ブラッド・ピットとジェニファー・アニストンには復縁して欲しいと思ってるでしょ?」

 ユーモア溢れるその語り口調に、プレスルームがどっと笑い声に包まれる。コメントの主は、現役時代と変わらぬ一見すると強面の相貌を、柔らかな笑みで崩していた。

 コンチタ・マルチネス。
 1994年ウインブルドンチャンピオンであり、引退後はスペインのフェドカップ及びデビスカップキャプテン、さらにカロリーナ・プリスコワのコーチも務めた、"女性レジェンドコーチ"の第一人者である。

 なお説明は不要かもしれないが、ブラッド・ピットとジェニファー・アニストンは、誰もが羨むハリウッドのビッグカップルだったが、5年の結婚生活を経て破局。その後、両者に復縁の気配はないが、マルチネスは、多くの関係者が再結成を望んでいた選手のコーチに就任した。

 それが、今大会のファイナリストであるガルビネ・ムグルサ。2017年、ムグルサがウインブルドンのタイトルを手にした時、マルチネスはフェド杯キャプテンとして、彼女の傍らに立ち続けた。

 だが、マルチネスがナショナルチームを離れるのと歩調を合わせるように、ムグルサは世界1位から転がり落ち、昨年末には36位まで落ちる。その大不振時に発表されたニュースが、マルチネスのコーチ就任。そして2人で迎えた今回の全豪で、ムグルサはノーシードから決勝まで駆け上がった。
 
 マルチネスのコーチとしての資質の一つは、冒頭にあげたコメントにも投影されているだろう。「私は、自分のやることに大きな情熱を注ぐ。そして選手のことをよく知り、良好な関係を築く」それこそが、本人が語るコーチの信条。ユーモアのセンスや巧みな話術も、その信条を支える技量だろう。

 さらに仔細に話を聞けば、ムグルサを導く明確なプランが、就任直後から彼女の中で確立していたことが伺える。ムグルサが求めたのはネットプレーの上達だが、マルチネスはそのために、「まずはグランドストロークを見直した」という。

「彼女は、サーブ&ボレーヤーになるわけではない。ならばグランドストロークを向上させ、ネットプレーに出るためのセットアップをしなくてはいけない。そのプレーが安定し自信を持ったら、ようやく次のステップに進める」。

 確かな慧眼と、選手からの信頼を勝ち得る人間性。それらを兼備する名参謀の存在が、ムグルサ復活の陰にあるのは間違いない。

 そのように、コーチとして多忙な日々を送る最中、マルチネスの下に、テニス殿堂入りを伝える吉報が飛び込んだ。