海外テニス

「集中することが大事だと思っていた」最も苦手とする芝のコートで大坂なおみが見出した勝利への鍵<SMASH>

内田暁

2025.07.01

ウインブルドン1回戦でギブソンを下した大坂。競った展開の中で集中力を高め、要所を締めて勝利をつかんだ。(C)Getty Images

「集中して!」

 日本語で己を鼓舞する声が、コートサイドまで届いた。

 相手のタリア・ギブソン(オーストラリア)は、ランキングこそ126位だが、簡単な相手ではない。むしろ予選の3試合を勝ち上がり、芝での経験と自信を懐に収める、極めて危険な選手だ。事実、子気味の良いフットワークから放つストロークは、低く鋭く、ラインの内側を捉えていく。

 第1セットは、先にブレークを許し追う展開。それでも、必死にボールに食らいつき、長いラリーにも自ら持ち込み、ポイントを取れずとも相手にプレッシャーをかけ続けた。第6ゲームを相手のダブルフォールトに乗じてブレークバックすると、ゲームカウント5-4の相手ゲームで、集中力を高めフォアのウイナーでセットを奪った。

 第2セットも、第1セットと似た展開となる。第7ゲームでは、ダブルフォールトとエラーが重なり許したブレーク。だが終盤では「集中!」と声に出し、ヒザを落としてボールを叩き、ブレークして追い上げる。最終スコアは、6-4、7-6(4)。勝利の瞬間を大坂なおみ(世界ランク56位)は、控え目に握り拳をファミリーボックスに向けて掲げた。

 芝と自身の関係性を、大坂は「皮肉にも、現時点で最も苦手」と表現した。なぜ「皮肉」なのか? それは、まだ芝もクレーの経験も浅かった10代の頃、周囲から「あなたのプレーは芝向き」と言われ、自身もそのように思ってきたことにある。

「クレーと芝、どちらで先に優勝できるかと問われたら、芝だろうと思っていた」

 今回の勝利後も、彼女は複雑な笑みをこぼしそう言った。

 実際に大坂の高速サービスは、バウンド後に低く伸びる芝で生きる。その自覚は彼女にもあり、「(前哨戦の)ベルリンやバート・ホンブルクでもサーブや好調だった」と振り返る。豪快なフォアハンドのショットも、ライン際に刺されば打ち返せる者はそうそうにいない。
 
 ただ芝での利点は、弱点と表裏。なぜならカウンターで打ち返された時、自分の時間が奪われるからだ。

「フットワーク面で、いかに反応を良くしていくかを、もっと学ばなくてはいけない。私はフォア、バックともにスイングが大きいので、もっとコンパクトにしなくてはいけない」

 利点と弱点のジレンマこそが、大坂が芝を「最もやりにくい」と感じる訳。そしてだからこそ「集中」こそが、攻守の均衡を見つける鍵となる。

「集中することが大事だと思っていた。テニスの武器は、私の手中にある。でも重要な場面でナーバスになってしまう。特にここ最近は、多くのブレークのチャンスを生かせない試合が続いた。だから目の前のポイントに集中し、自分にそう言い聞かせることが重要だと思っていた」

 「それが今日はできたので、これからも継続できたら良いな…」そう言い彼女は小さく笑った。

 2回戦の対戦相手は、ジェン・チンウェン(中国/同6位)対カテリナ・シニアコワ(チェコ/同81位)の勝者。本来ならこの試合も30日に行なわれるはずだったが、日没順延のためまだ決まっていない。

 ただ大坂にとっては、相手が誰か以上に重要であり、モチベーションとなることがある。2回戦が予定されている7月2日は、愛娘シャイちゃんの2度目の誕生日なのだ。

「誕生日に彼女が会場に来て、私の試合を見てくれたら、私たちにとって掛け替えのない場所になる」

 柔らかに微笑み、母が言う。

 1年前に大坂は、この場所で、「いつも絵本など色々とあげているから、誕生日だからといって特別なプレゼントをあげるわけではない」と笑っていた。今年は自身の勝利という、とびきりのプレゼントを贈るべくコートへと向かう。

現地取材・文●内田暁

【画像】大坂はじめ、2025ウインブルドンを戦う女子トップ選手たちの厳選フォト

【関連記事】大坂なおみ、ウインブルドン初戦突破! 21歳新鋭との接戦を制し「自分のプレーに満足している」<SMASH>

【関連記事】ウインブルドンに挑む大坂なおみが「成長し続ける」と意気込み!内島萌夏は「すごく楽しみ」、伊藤あおいは「金額アップを目指す」<SMASH>