「これは、今まで夢に見たことすらない、夢だった」と、イガ・シフィオンテク(ポーランド/世界ランキング4位)は上ずった声で言った。
テニスの四大大会「ウインブルドン」(イギリス・ロンドン/芝コート)での戦績は、2023年に記録したベスト8が最高。2年近くに渡り世界1位に座していた彼女が、戦績的に最も苦しんできたのが、"聖地"と呼ばれるこの地だった。
いや、戦績だけではない。今大会中ですら彼女は、「優勝できるとは思っていない」「芝でのプレーは困難」と、苦手意識を隠すことがなかったほどだ。
その彼女が、ついに聖地で優勝プレートを掲げる。それも、準決勝はベリンダ・ベンチッチ(スイス/同35位)に6-2、6-0で快勝。決勝戦のアマンダ・アニシモワ戦(アメリカ/同12位)では、6-0、6-0のスコアで完封優勝を成したのだ。これは1968年以降の"オープンエラ"では、大会史上初の快挙。四大大会全体で見ても、88年の全仏オープン以来の出来事だった。
「最も苦手な地」で誇示した最強の姿は、確かに夢のように映る。だがその背後には、緻密に優勝へのロードマップを描いた人物がいた。それが昨年秋に、シフィオンテクのコーチに就任したウィム・フィセッテ氏。長く大坂なおみ(同53位)のコーチも務め、理詰めの指導方針から"プロフェッサー"と呼ばれる知将である。
衝撃の優勝劇から、数十分後――。チームスタッフたちと2本目のシャンパンボトルを開けたフィセッテ氏は、グラス片手に、囲み取材に応じてくれた。
「これはまだ2杯目。今晩は、しこたま飲むよ!」
取材陣に対して常に寛容な彼が、この時はいつに増して饒舌だ。
「試合前のウォームアップから、彼女の調子が良いのは感じていました。だから良い試合をしてくれるという自信はあったけれど……、それにしても、こんな結果を誰が予想できたというんだい!」
さすがに決勝のスコアや内容は、"プロフェッサー"をしても想定外。ただ彼は、新たな教え子が芝で勝つ可能性を、本人以上に強く信じていたという。
「正直、彼女のチームに加わった時から、行けるのではと思っていました。過去10年のウインブルドン優勝者たちを見ても、必ずしもサーブの強い選手が勝っているわけでもない。動きが良くて賢い選手……、例えばシモナ・ハレプ(ルーマニア/今年現役引退)やマルケタ・ボンドロソワ(チェコ/同73位)が勝っているのだから、イガにもチャンスがあると思っていました。
ただ過去数年はクレーで勝ちまくっていたので、そこから芝に切り替えるのが難しかったんです。今年は全仏の準決勝で負けたので、時間的余裕がありました。特に、マヨルカで5日間、とても充実した練習ができたんです。前哨戦で決勝に行けたのも大きかった。今大会でも、試合を重ねるごとに成長できたと思います」
例年より多く得られた準備期間で、技術面の改良にも取り組んできたという。とりわけ大きいのは、「フットワーク」だと彼は言った。
「フォアハンドも少し変えましたが、一番の変更点は、フットワークですね。芝や高速サーフェス向けに調整しました。クレーであれだけ成功していたので、違うことを試すのは簡単ではなかった。実際に彼女も、最初はなかなか納得してくれなったので」
テニスの四大大会「ウインブルドン」(イギリス・ロンドン/芝コート)での戦績は、2023年に記録したベスト8が最高。2年近くに渡り世界1位に座していた彼女が、戦績的に最も苦しんできたのが、"聖地"と呼ばれるこの地だった。
いや、戦績だけではない。今大会中ですら彼女は、「優勝できるとは思っていない」「芝でのプレーは困難」と、苦手意識を隠すことがなかったほどだ。
その彼女が、ついに聖地で優勝プレートを掲げる。それも、準決勝はベリンダ・ベンチッチ(スイス/同35位)に6-2、6-0で快勝。決勝戦のアマンダ・アニシモワ戦(アメリカ/同12位)では、6-0、6-0のスコアで完封優勝を成したのだ。これは1968年以降の"オープンエラ"では、大会史上初の快挙。四大大会全体で見ても、88年の全仏オープン以来の出来事だった。
「最も苦手な地」で誇示した最強の姿は、確かに夢のように映る。だがその背後には、緻密に優勝へのロードマップを描いた人物がいた。それが昨年秋に、シフィオンテクのコーチに就任したウィム・フィセッテ氏。長く大坂なおみ(同53位)のコーチも務め、理詰めの指導方針から"プロフェッサー"と呼ばれる知将である。
衝撃の優勝劇から、数十分後――。チームスタッフたちと2本目のシャンパンボトルを開けたフィセッテ氏は、グラス片手に、囲み取材に応じてくれた。
「これはまだ2杯目。今晩は、しこたま飲むよ!」
取材陣に対して常に寛容な彼が、この時はいつに増して饒舌だ。
「試合前のウォームアップから、彼女の調子が良いのは感じていました。だから良い試合をしてくれるという自信はあったけれど……、それにしても、こんな結果を誰が予想できたというんだい!」
さすがに決勝のスコアや内容は、"プロフェッサー"をしても想定外。ただ彼は、新たな教え子が芝で勝つ可能性を、本人以上に強く信じていたという。
「正直、彼女のチームに加わった時から、行けるのではと思っていました。過去10年のウインブルドン優勝者たちを見ても、必ずしもサーブの強い選手が勝っているわけでもない。動きが良くて賢い選手……、例えばシモナ・ハレプ(ルーマニア/今年現役引退)やマルケタ・ボンドロソワ(チェコ/同73位)が勝っているのだから、イガにもチャンスがあると思っていました。
ただ過去数年はクレーで勝ちまくっていたので、そこから芝に切り替えるのが難しかったんです。今年は全仏の準決勝で負けたので、時間的余裕がありました。特に、マヨルカで5日間、とても充実した練習ができたんです。前哨戦で決勝に行けたのも大きかった。今大会でも、試合を重ねるごとに成長できたと思います」
例年より多く得られた準備期間で、技術面の改良にも取り組んできたという。とりわけ大きいのは、「フットワーク」だと彼は言った。
「フォアハンドも少し変えましたが、一番の変更点は、フットワークですね。芝や高速サーフェス向けに調整しました。クレーであれだけ成功していたので、違うことを試すのは簡単ではなかった。実際に彼女も、最初はなかなか納得してくれなったので」