第2セットはアルカラスが早々に2つのブレークを奪い、一時は5-1と大きくリード。フリッツもブレークを1つ返し意地を見せるが、趨勢を反転させるまでの余力はなかった。最終スコアは、6-4、6-4。王者が、王者たるゆえんを遺憾なく発揮しての戴冠だ。
先の全米オープン決勝をアルカラスと戦い敗れたヤニック・シナーは、アルカラスの強さを「予測不能性」に求めた。豊富なショットバリエーションに依拠する創造性こそが、アルカラスを最強たらしめているという。
フリッツも、そのシナーの見立てに、基本的には賛同する。
「カルロスは、とてつもなくパワフルで、同時に驚異のタッチの持ち主。ドロップショットも打てれば、ネットにも出られる。ポイントを取る手札が、幾つもある」
そう説明した後で、「ただ僕にとって最も難しいのは......」と、世界5位は言葉を続けた。
「僕が攻めている時さえ、少しでもショットが甘くなると、一瞬で逆襲されウィナーを決められてしまうことだ。他の選手なら、多少甘くなっても、ニュートラルな状態からの打ち合いに戻されるだけ。でもカルロスが相手だと、完璧に近いショットを打たなければならないので、常にプレッシャーを感じる」
第1セット終盤で、増えたミスショット。そして均衡が崩れたところから、一気に傾いた流れ。決勝戦の攻防が、そしてスコアラインが、フリッツの内面をそのまま映しているようだった。
フリッツと握手を交わし、コート中央で優勝者の名乗りを受けたアルカラスが、ベンチに戻り真っ先にしたことは、シューズとソックスを脱ぎ、左足首に厳重に巻かれたテーピングを外すことだった。それは今大会の1回戦、開始わずか20分で痛めたケガの跡。結果的に強さを誇示した今大会は、思えば誰もが途中棄権かと危惧したアクシデントから始まっていた。
振り返れば今季のアルカラスは、決して望むようなスタートを切ったわけではない。
「3月には大会で早期敗退も続き、精神的につらい時期もある」という。ただその中から再びモチベーションと「テニスを楽しむ心」を取り戻し、5月以降からこの東京まで、9大会連続決勝進出という驚異の快進撃を走ってきた。
「落ち込んだ状態から回復し、今また精神的に充実していることが、自分を何より誇りに感じること」
優勝者はそう言い、胸を張った。
優勝会見のテーブルに置かれたトロフィーを自らのスマホで撮影し、ウインクを残しインタビュールームを去った時から、約30分後――。翌日から始まる上海マスターズの欠場を、アルカラスは表明した。
一度コートに立ったならば、いかなる状況でも全力を尽くす。自分も楽しむと同時に、見に来たファンをも楽しませ、熱狂させ、最後には笑顔にさせる。
なぜ彼が、世界1位なのか。なぜ彼が、22歳にして早くも“史上最高候補者”と呼ばれるのか。
その問いへの全ての解を、彼は有明コロシアムで示してみせた。
取材・文●内田暁
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フリッツも、そのシナーの見立てに、基本的には賛同する。
「カルロスは、とてつもなくパワフルで、同時に驚異のタッチの持ち主。ドロップショットも打てれば、ネットにも出られる。ポイントを取る手札が、幾つもある」
そう説明した後で、「ただ僕にとって最も難しいのは......」と、世界5位は言葉を続けた。
「僕が攻めている時さえ、少しでもショットが甘くなると、一瞬で逆襲されウィナーを決められてしまうことだ。他の選手なら、多少甘くなっても、ニュートラルな状態からの打ち合いに戻されるだけ。でもカルロスが相手だと、完璧に近いショットを打たなければならないので、常にプレッシャーを感じる」
第1セット終盤で、増えたミスショット。そして均衡が崩れたところから、一気に傾いた流れ。決勝戦の攻防が、そしてスコアラインが、フリッツの内面をそのまま映しているようだった。
フリッツと握手を交わし、コート中央で優勝者の名乗りを受けたアルカラスが、ベンチに戻り真っ先にしたことは、シューズとソックスを脱ぎ、左足首に厳重に巻かれたテーピングを外すことだった。それは今大会の1回戦、開始わずか20分で痛めたケガの跡。結果的に強さを誇示した今大会は、思えば誰もが途中棄権かと危惧したアクシデントから始まっていた。
振り返れば今季のアルカラスは、決して望むようなスタートを切ったわけではない。
「3月には大会で早期敗退も続き、精神的につらい時期もある」という。ただその中から再びモチベーションと「テニスを楽しむ心」を取り戻し、5月以降からこの東京まで、9大会連続決勝進出という驚異の快進撃を走ってきた。
「落ち込んだ状態から回復し、今また精神的に充実していることが、自分を何より誇りに感じること」
優勝者はそう言い、胸を張った。
優勝会見のテーブルに置かれたトロフィーを自らのスマホで撮影し、ウインクを残しインタビュールームを去った時から、約30分後――。翌日から始まる上海マスターズの欠場を、アルカラスは表明した。
一度コートに立ったならば、いかなる状況でも全力を尽くす。自分も楽しむと同時に、見に来たファンをも楽しませ、熱狂させ、最後には笑顔にさせる。
なぜ彼が、世界1位なのか。なぜ彼が、22歳にして早くも“史上最高候補者”と呼ばれるのか。
その問いへの全ての解を、彼は有明コロシアムで示してみせた。
取材・文●内田暁
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