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海外テニス

事実上の“引退宣言”から20カ月…大手術を経て戻ってきたマリーが見せた”あの時との違い”

内田暁

2020.09.03

「遥かに状態もいい」西岡戦を終えて、そう明かしたマリー。(C)GettyImages

「遥かに状態もいい」西岡戦を終えて、そう明かしたマリー。(C)GettyImages

「何やってんだ、アンディ!」と叫び、足を引きずるように歩く彼の姿は、傍目には試合を諦めているかのようにすら映る。
 だが、元世界1位の“堅”の強みが発揮されるのは、ここからだ。
「試合の序盤は、5セットを戦うペース配分などを考えてしまった」
「攻守のバランスが見つけられず、ネットに出る判断もミスが多かった」
 序盤の苦闘の訳を後にそう語るマリーは、試合の中で手堅く、そして賢く、適切なバランスを探求していた。

 その解が見え始めたのが、第3セットの中盤。今まで以上にフォアで攻め、打ち合いで優勢と見るや迷わずネットに出て、ボレーを決める。第3セットをタイブレークの末に奪い、第4セット以降は幾度もブレークの危機に瀕すも、そのたびに相手の読みを外すサービスで切り抜けた。

 対する西岡は、これらチャンスの局面で、やや消極的になってしまったことを悔いる。

「ここというところでの思い切りが足りなかった。良い時は『入れば良いや』くらいの気持ちで攻撃したり、クッと集中力が上がることがあるんですが、そういうのが今日は無かった」

 それらの勝負感覚を「言葉で表現するのは難しい」と西岡は言ったが、これこそが兄の言う“柔”なのだろう。
 
 その持ち味を出すことが出来なかったのは、実戦から長く離れていたがゆえの試合勘の欠如が大きいと西岡本人は見る。あるいは、闘志の高ぶりは見せながらも“堅”を貫くマリーのプレーが、西岡にそれをさせなかったのかもしれない。

 第5セットも先にブレークされたマリーだが、続くゲームを絶妙なロブで奪い返す。

 そして、西岡のサービスゲームで迎えた、マリーのマッチポイント――。この局面でサーブ&ボレーに出る西岡の大胆さを、マリーは定石のロブで封じる。懸命に伸ばしたラケットで西岡が返したボールはラインを割り、4時間39分の死闘に幕が降りた。

 拳を振り上げ咆哮を向けたスタンドに、ファンの熱狂はない。だが観客席の至るところには、彼の復活劇を見守るべく足を運んだ兄のジェイミーやイギリス人選手、さらにドミニク・ティームらトップ選手たちの姿があった。

 ベンチに、身体を横たえるように浅く腰掛けたマリーは、高ぶる感情を吐き出すように、外したリストバンドを地面に叩きつけ、「カモーン!」と再び大きく叫ぶ。2セットダウンから追いついたのは、20か月前の試合と同じ展開。そして今度は自らの手で、異なる結末を書き込んだ。

「4時間半の試合を戦えるようになるなんて、思いもしなかった。オーストラリアでのバウティスタ(アグート)戦後に比べたら、遥かに状態もいいよ。臀部の痛みも感じることなく座れているしね」

 今晩はぐっすり眠れるはずだ……と、いつもの抑揚ない声で彼は言う。
 ただその口元には、あの時にはなかった笑みが広がっていた。

文●内田暁
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