専門5誌オリジナル情報満載のスポーツ総合サイト

  • サッカーダイジェスト
  • WORLD SOCCER DIGEST
  • スマッシュ
  • DUNK SHOT
  • Slugger
海外テニス

テニスに恋した場所で―― 全仏を制したニューヒロイン・シフィオンテクの物語

内田暁

2020.11.27

周囲に流されず、常に冷静な判断を下してきたシフィオンテク。同じシリーズのラケットを5年間使い続けているのも、そんな彼女の人間性を示す一端かもしれない。(C)Getty Images

周囲に流されず、常に冷静な判断を下してきたシフィオンテク。同じシリーズのラケットを5年間使い続けているのも、そんな彼女の人間性を示す一端かもしれない。(C)Getty Images

■内なる重圧と対峙するために心理学者に師事

「テニス選手がどれほどのプレッシャーを抱えながらコートに立つか、一般の人には、なかなか理解してもらえないと思う」と彼女は言う。特に、彼女のように早期での結果を求め、なおかつ学業との両立を目指した者ならなおのことだ。

 このプレッシャーの正体とは何かと考えた時、シフィオンテクが至った答えは「重圧はあくまで、自分の内側で生まれるもの」という真理。だからこそ彼女は内なる敵と対峙するため、スポーツ心理学者に師事することを望んだ。

 何人かのスポーツ心理学者を試した後、幸いにも彼女は、1人の信頼のおける人物と出会う。ボートやサイクリング競技者の指導経験も持つダリア・アブラモビッチは、まずは17歳の少女に日常の過ごし方から助言した。

 信頼できる周囲の人々との関係性を確立すること。自分への期待値を上げすぎず、代わりに、基準を高く保つこと。それら心理学者からの助言に耳を傾けた彼女は、「日常生活が、いかにコート上のパフォーマンスに影響を及ぼすか」を痛感したという。
 
■セミプロから真のプロになり、瞬く間に頂点へ!

 今年3月にコロナ禍によりツアー中断が決まった時も、彼女はいったんコートを離れ、高校のカリキュラムを終えることに専念した。「猛勉強の甲斐あり、とても良い結果で卒業試験を終えられた」と笑うシフィオンテクが再び練習コートに戻った時、その集中力や「野心」は以前と異なるレベルだと、周囲の目にも映ったという。

「それまでの彼女は、言ってみれば高校生と両立のセミプロ。それが完全にプロになった」コーチもある種の期待と予感を覚えるなか、真にプロの道を歩みだした19歳は、ローランギャロスで頂点まで駆け上がる。

「いつの日かグランドスラムで決勝を戦うなら、それはローランギャロスだと思っていた」夢見た銀杯を抱えた時、彼女は微かに声を震わせる。

 15歳の日――初めて「テニスと恋に落ちた」地で見た夢を、4年後に彼女は、自らの手で実現した。

文●内田暁

RECOMMENDオススメ情報

MAGAZINE雑誌最新号