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海外テニス

【レジェンドの素顔2】傷心したマッケンローが迎えた全米オープン。強敵レンドルとの戦い|前編

立原修造

2020.12.15

1982年の全米オープン準決勝でレンドルはマッケンローを4-6、4-6、6-7破った。写真:THE DIGEST写真部

1982年の全米オープン準決勝でレンドルはマッケンローを4-6、4-6、6-7破った。写真:THE DIGEST写真部

完全に奴のペースになっている

「なんだって奴は、あんなに思い切って打ってこれるんだい?」
 マッケンローは半ばあきれながら、ネットの向こうに立っている神経質そうな男を見た。その男はしきりにガットのヨレを直している。

 その仕草は、まるで髪を一本一本ラケット面の上に並べているような執拗さだ。得意なときに彼が見せる癖であることを、もちろんマッケンローは知っていた。

「完全に奴のペースになっている」
 マッケンローは歯痒い思いがした。思い通りのプレーができないのだ。このところずっとそうだ。しかも、会心のサービスを打っても、逆にリターンエースを浴びせられてしまう始末だ。あの男には自分の心が見透かされているようでならない。
 
 レンドル―――。

 その名は、マッケンローの心に重くのしかかるようになった。とにかく勝てない。5連敗も喫している。そして、今日も。

「しかし、今日はなんとしても負けるわけにはいかない」
 マッケンローは必死に自分を奮い立たせようとした。もしポケットの中に、都合良く興奮剤が入っていたら、それを手あたり次第に飲んでいたかもしれない。

 マッケンローがそれほどまで切羽詰まったのは、それがUSオープンだったからだ。ウインブルドンではどうでもよくても、USオープンではどうでもよくない理由を、彼はたくさん抱えこんでいたのだ。何よりもニューヨークっ子のマッケンローは、地元ということにとことんこだわる男なのである。

 しかし、マッケンローはその地元で無残な敗戦を喫することになった。1982年、USオープン4連覇をめざした彼は、準決勝でレンドルに敗れたのだ。

4-6、4-6、6-7。

 このスコアを見ただけで、“あわや”というシーンが皆無だったことがわかる。1981年のフレンチ・オープン以来、これで対レンドル戦6連敗になった。どんな御託を並べても、レンドルにはまったく歯が立たないところまでマッケンローは追い込まれていたのだ。
(続く)

文●立原修造
※スマッシュ1986年9月号から抜粋・再編集

【PHOTO】マッケンローetc…伝説の王者たちの希少な分解写真/Vol.1
 
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