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海外テニス

【レジェンドの素顔5】“悪童”マッケンローが見せた初めてのサービス精神。7か月間の休養で自信を取り戻す|前編<SMASH>

立原修造

2021.03.31

マッケンローのコート上での振る舞いは観客をハラハラさせる要因の一つだった。写真:THE DIGEST写真部

マッケンローのコート上での振る舞いは観客をハラハラさせる要因の一つだった。写真:THE DIGEST写真部

 ここに、マッケンロー・テニスの醍醐味がある。ところが、レンドルやビランデルではこうはいかない。

 彼らのテニスは、あまりに理詰め過ぎて、ドシデン返しがまるでない。結末がわかってしまったノンフィクションのようなものだ。セオリー通りにパッシング・ショットを打ち、安全なときだけネットに出てボレーを決める。あとは延々とベースライン上でのストローク合戦が続く。個々のショットのすばらしさに感心することはあっても、展開の目まぐるしさに度肝を抜かれることは少ない。

 たとえば、レンドル対ビランデルの一戦があるとする。どんな試合になるか試合前にさんざん予想したとしても、おそらく、最初の1ゲームを見ればすべてがわかってしまうだろう。そのあと試合終了まで、観客たちはマンネリズムの競技を観せられることになる。そこらが、最後までハラハラドキドキさせてくれるマッケンローとの大きな違いだ。

 さらにマッケンローのプレーをスリリングにさせているのが、コート上で彼が見せる自己顕示欲の強さだ。確かにマナーの悪さが目立つが、勝手なふるまいも、単にエンターテインメントと考えれば、これほど格好の出し物は滅多にない。現に、観客たちは十分に楽しんでいる。まるで大リーグ野球の場内乱闘に興奮しているときと同じように―――。
 
 きわどいボールの判定があるとする。マッケンローは不服そうだ。さあ、観客たちは一斉に緊張する。一体、マッケンローがどういう態度に出るのか、と。今どきホラー映画だって、こんなにはハラハラさせてくれないのだ。

 と同時に、マッケンローは審判の技術向上の最大の功労者であることも忘れてはならない。あれほど判定にうるさい男がいれば、審判も気合が入る。文句を言われないように自分の技術を磨くだろう。そこに向上がある。

 このように強烈な“存在感”を巻きちらしながら、マッケンローは1980年代前半をリードした。ところが、昨年後半からの不振。

 ケガ、疲労、私生活上のトラブル――。さまざまな要因がマッケンロー・テニスからハラハラドキドキを奪い取ってしまった。憎らしいほど強いからこそ、審判に悪態をついてもサマになる。負けがこみ始めると、同じことをするのでも、単なる泣きごとにしか見えなくなる。

 世界中のファンは、もっとエキサイティングなマッケンローを待っている。マッケンロー自身もそれを望んだからこそ危険とも思える長期休養を取ったはずだ。さて、休養後の彼はどんな風に変わったのだろうか。
 

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