ヤツがナンバーワンだって?
うれしくなってしまう。
今年8月に復帰したときのマッケンローが、いささかも自尊心を失っていなかったからだ。
まず、ベッカーをこきおろした。
「ヤツがナンバーワンだって?冗談じゃないぜ。オレがいないときにウインブルドンに勝ったって、それが何になる?」
次に、テニス界全体を嘆いた。
「休んでいて一番思ったのは、オレがいないテニス界って、なんて盛り上がらないんだろうってことさ。ウインブルドンでいくら入場者のレコードを作ったからといっても、あくまでも数字だけの話で、とても中身がともなっていたとは思えないね」
さらに、こう結んでいる。
「オレがいなくちゃ、今のテニス界はどうしようもない。なにしろ、世界中のテニスファンがオレを待っているんだからな」
どうだろう。この堂々とした復帰の弁。一時、引退説までささやかれた男の言葉とは、とても思えない。
7か月間にわたった長期の休養が、ことのほか彼をリフレッシュさせたのだろう。その間、6週間もラケットにさわらなかった時期もあったが、ヨガやウェートトレーニングにも積極的に取り組み、やるべきことはすべてやった。それが吉と出るかどうかは長い目で見なければわからないが、最も大切な“自信”を取り戻したことは確かなようだ。
復帰に際し、マッケンローはケジメをつけた。8月1日、テータム・オニールと正式に結婚式をあげたのだ。式に列席したピーター・フレミングやビタス・ゲルライテスも、「あんなに幸せそうなマックを初めて見た」と語っている。長く続いた私生活の不安が解消されて、心から人生最良の日を味わったことだろう。
式を終えて、マスコミ陣やファンの前に姿を見せた二人は幸せそのものだ。マッケンローは、はにかみながら精一杯の笑顔をつくっていた。マスコミ嫌いのマッケンローがマスコミ陣に初めて見せたサービス精神だった。
ここにも、マッケンローの"自信"はうかがえる。いくら結婚式とはいえ、真近に迫った復帰にある程度の勝算がなければ、これほどの余裕は見せられないものだ。あるいは、不安でしょうがなければ、わざわざこんな時期を選んで結婚式をあげたりはしないはずだ。
マッケンローはその気になっている。この結婚式はテニス・プレーヤーとしてのマッケンローにとっても門出の場だった。
(続く)
文●立原修造
※スマッシュ1986年12月号掲載原稿に加筆・修正
【PHOTO】マッケンローetc…伝説の王者たちの希少な分解写真/Vol.1
うれしくなってしまう。
今年8月に復帰したときのマッケンローが、いささかも自尊心を失っていなかったからだ。
まず、ベッカーをこきおろした。
「ヤツがナンバーワンだって?冗談じゃないぜ。オレがいないときにウインブルドンに勝ったって、それが何になる?」
次に、テニス界全体を嘆いた。
「休んでいて一番思ったのは、オレがいないテニス界って、なんて盛り上がらないんだろうってことさ。ウインブルドンでいくら入場者のレコードを作ったからといっても、あくまでも数字だけの話で、とても中身がともなっていたとは思えないね」
さらに、こう結んでいる。
「オレがいなくちゃ、今のテニス界はどうしようもない。なにしろ、世界中のテニスファンがオレを待っているんだからな」
どうだろう。この堂々とした復帰の弁。一時、引退説までささやかれた男の言葉とは、とても思えない。
7か月間にわたった長期の休養が、ことのほか彼をリフレッシュさせたのだろう。その間、6週間もラケットにさわらなかった時期もあったが、ヨガやウェートトレーニングにも積極的に取り組み、やるべきことはすべてやった。それが吉と出るかどうかは長い目で見なければわからないが、最も大切な“自信”を取り戻したことは確かなようだ。
復帰に際し、マッケンローはケジメをつけた。8月1日、テータム・オニールと正式に結婚式をあげたのだ。式に列席したピーター・フレミングやビタス・ゲルライテスも、「あんなに幸せそうなマックを初めて見た」と語っている。長く続いた私生活の不安が解消されて、心から人生最良の日を味わったことだろう。
式を終えて、マスコミ陣やファンの前に姿を見せた二人は幸せそのものだ。マッケンローは、はにかみながら精一杯の笑顔をつくっていた。マスコミ嫌いのマッケンローがマスコミ陣に初めて見せたサービス精神だった。
ここにも、マッケンローの"自信"はうかがえる。いくら結婚式とはいえ、真近に迫った復帰にある程度の勝算がなければ、これほどの余裕は見せられないものだ。あるいは、不安でしょうがなければ、わざわざこんな時期を選んで結婚式をあげたりはしないはずだ。
マッケンローはその気になっている。この結婚式はテニス・プレーヤーとしてのマッケンローにとっても門出の場だった。
(続く)
文●立原修造
※スマッシュ1986年12月号掲載原稿に加筆・修正
【PHOTO】マッケンローetc…伝説の王者たちの希少な分解写真/Vol.1