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海外テニス

【レジェンドの素顔6】クリス・エバートをチャンピオンへと導いた2つの幸運|前編<SMASH>

立原修造

2021.04.07

クリス・エバートのテニスの才能を開花させたのは父親のジミーだった。写真:THE DIGEST写真部

クリス・エバートのテニスの才能を開花させたのは父親のジミーだった。写真:THE DIGEST写真部

 後にジョン・ロイドと結婚したとき、ジョンの少年時代の環境を聞いて、びっくりしたことがある。イギリスではどこでも、冬の間にプレーすることは不可能だったのだ。

「ぼくがもし、フロリダに生まれていたら、トップ10に入るくらいのプレーヤーになっていたと思うよ」。ジョンがにが笑いを浮かべながらそう言ったとき、クリスは自分がどんなに幸運な土地で育ったかを知った。

 さて、クリスをチャンピオンに押し上げたもう一つの幸運についてだが、それには父親のジミーに登場してもらわなければならない。ジミーは地元でティーチング・プロをしていたのだが、彼ほど影響力の強いコーチを身内に持てたことがクリスには幸いした。素質を一気に開花させる原動力になったのである。ジミーがいればこそ――。

 といっても、クリスの少女時代、父親のジミーがつきっきりでコーチをしてくれたというわけではない。事実、クリスは、「技術的にパパから教わったことはない」と明言している。
 
 むしろ、ジミーは、クリスの両手打ちバックハンドに対して、最初は反対だった。小さい頃のクリスは、小柄でとても非力な少女だったため、バックハンドは両手で打っていた。ジミーは、それまで両手打ちバックハンドで大成したプレーヤーがいないという理由で、なんとかクリスの両手打ちをやめさせようとした。しかし、クリスがバックハンドを片手で打つと、ボールはまったくネットを越えていかなかった。

 ジミーは仕方なくクリスの両手打ちを認めることにした。顔は怒りでまっ赤だった。将来、クリスの最大の武器となる両手打ちバックハンドは、あやうく父親のジミーによって、やめさせられるところだったのである。素直に従っていたら、どうなっていたことか―――。

 それでも、なお、クリスのテニスはジミーによって築き上げられたといっても過言ではない。何を根拠にそう言い切れるのか。それはテニスが非常にメンタルなスポーツであることと無縁ではない。
 
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