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海外テニス

大会の裏方、ストリンガーも奮闘!完全隔離選手の工夫、大坂なおみのセッティングは?【全豪オープン/現地発レポート】〈SMASH〉

内田暁

2021.02.21

通常とは異なる状況の中で、ストリングを張り続けたヨネックスチーム。写真提供:ヨネックス(株)

通常とは異なる状況の中で、ストリングを張り続けたヨネックスチーム。写真提供:ヨネックス(株)

「今、ラケットをピックアップしたから○分後に扉の前に置いておくね!」「誰々選手からはこういう要望があったよ」「オレは今日○本張ったぞ!」顔は見えないながらも声を掛け合い、チームとしてモチベーションを高めながら、隔離期間を乗り切っていく。そうして2週間を終えた時、初めて全員が直に顔を合わせたのだった。

 ただその後も、予期せぬトラブルは発生する。際たるものが、選手やストリンガーたちも滞在した、ハイアットホテルの従業者に陽性者が出たことだ。そのため、濃厚接触者とみなされたスタッフ数名は、さらに14日間の隔離となる。

 その中には、選手からのラケットを受け取って要望を聞き、データベースを作る係もいた。このデータ入力にミスがあれば、その後の作業全てが誤ることになる。だからこそ受付けは、一定の知識と経験があり、選手と顔見知りの人員が望ましい。ある意味では受付け係は、最も代わりのいないポジションだった。

 隔離明け後は休む間もなく、全豪オープン同会場で行なわれたATPカップと女男ツアーのストリングを張っていく。6大会同時進行という混沌状態ではあったが、その中で目についたのが、2週間完全隔離になった選手たちからのリクエストだった。

「2週間、会場で練習できなかった選手たちは、最初の数日は適切なテンションを見つけるのに苦労していたようでした。なので、通常より2~3本多めにラケットを持ってきて、異なるテンションで張ってほしいというリクエストが多かったですね」と、ステイウェル氏は述懐する。

 なお一般的に、テンションは男子よりも女子の方が高い傾向があり、最も高いのは女子選手の36キロ、低いのは男子選手の17~18キロだったという。
 
 またここ数年で見られるトレンドが、ナチュラルストリングスの増加。「僕がグランドスラムで張り始めた10年ほど前は、縦も横もポリエステルを使う選手が多数派でした。でも今は、ハイブリッドが半数くらいですね。縦と横、どちらにナチュラルを使うかも半々くらいでしょうか」

 ちなみに大坂なおみは、ツアーを回り始めた頃は縦も横もポリエステルだったが、サーシャ・バインがコーチに就いた2018年から、横にナチュラルを用いるハイブリッドになったという。このあたりは、選手の好みはもちろん、コーチの指導法や助言も影響していそうだ。
 
 何もかもが異例な中で行なわれた今大会では、種々の要素が複雑に絡みながら、幾つもの新たなストーリーを紡いだ。それら深みある物語の背後に、ストリンガーという匠の者たちがいたことは、間違いない。

現地取材・文●内田暁

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