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海外テニス

全仏4強入りしたサッカリの躍進を支える若き戦術家コーチの存在。その数奇なキャリアの始まりはシャラポワとの…<SMASH>

内田暁

2021.06.10

ヒルがコーチに就いたサッカリは、世界50位前後から18位までランクを上げている。同年代の2人は何でも話しやすいという。(C)Getty Images

ヒルがコーチに就いたサッカリは、世界50位前後から18位までランクを上げている。同年代の2人は何でも話しやすいという。(C)Getty Images

 現在26歳のヒルは、サッカリと同世代。若さの特権を彼は、「共通の話題が多く、ボーイフレンドや家族など、何でも話せること」だと言った。

 また、競技者としての記憶が色褪せず、自分がコートに立つかのような情熱と視点で選手に寄り添えるのも、利点だろう。

「僕がマリアにもたらした最大の武器は、戦術だと思います。対戦相手を分析することに、僕は強迫観念を抱いていて……。この間も夜中の2時に目が覚めて、『ケニンのサーブをリターンするには、マリアはどこに立つべきだろう!?』と考えたら眠れなくなってしまった。結局、3時からケニンの動画を見て分析してたんです」

 その「強迫観念」は次々に、サッカリに勝利をもたらしている。サッカリは頑なに戦術について語ることを拒むが、それは、いかに彼女が戦略に重きを置いているかの証左でもあるだろう。

 現にサッカリも若きコーチを、「とても良い目を持っていて、相手の弱点を見抜くのが得意」だと評する。また、「私が一番好きなのは、彼は『良くない作戦だったら、それは僕の責任』と言ってくれること」だと続けた。
 
 準決勝のシフィオンテク戦でも、コーチは効果的な戦略を立て、選手はそれを遂行した。この時もサッカリは「作戦がうまくいった」と語るにとどめ、その内訳は明かさない。ただ敗れたシフィオンテクは、「あんなにフォアを狙われると思わなかった。彼女の戦術にしてやられた」と勝者を称えた。

 なお、シフィオンテクのコーチのシェツプトウスキは、ヒルと同世代で良き友人。サッカリとシフィオンテクの対戦が決まった時、シェツプトウスキは、ヒルに「良い試合をしよう!」とメッセージを送ったという。

「僕らコーチは、同じ大会を転戦する盟友でもある。最初は、ツアーのラウンジはギスギスした空気なのかと思っていたが、実際には正反対。誰も他人を蹴落とそうなんて考えない。ざっくばらんに話せる相手がいるのは、良いことだよ」

 昨年の“最優秀コーチ賞”受賞者は、舞台裏の雰囲気を明かした。

 4年前のあの日にバーに行かなければ、今の“コーチ・ヒル”はいないだろうし、そうなればもしかしたら、今のサッカリもいなかったのかもしれない。

 交錯する数奇な運命の糸に導かれ、若きコーチと選手は、新たな歴史を赤土に刻んでいく。

現地取材・文●内田暁
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