その上でジョコビッチは、来たる錦織戦の展望をも口にする。
「彼は僕が今まで見た中で、最も素早く、最も才能のある選手の一人だ。彼との対戦で大切なのは、良いサーブを打つこと。そして、ボールの速度を、少し落とすこと。なぜなら彼は、速いボールを好物とするからだ。ベースラインから下がらず、早いタイミングで打ち返すのをね」
そう明瞭に分析した後、彼は、「良い挑戦を楽しみにしているよ」と不敵に笑った。
対する錦織にとってジョコビッチ戦は、逡巡と落胆、覚悟と希望、そして新たな試行錯誤の軌跡だ。2016年4月のマイアミ・マスターズ決勝で敗れた時は、「リスク覚悟で攻めるべきか、それとも我慢強く行くべきか……彼とやる時は、そのバランスがいつも難しい」と葛藤の胸中をこぼした。
続く5月のマドリード・マスターズでは、クレーの特性も生かし、高く跳ねるボールを多用して善戦。この試合で得た攻略法を試す機会は、翌週のローマ・マスターズで訪れた。序盤から、スピンを効かせたフォアで迷いなく攻める錦織は、多くの局面でジョコビッチを圧倒する。その痛快なプレーはファンを魅了したが、それでも結果は、ファイナルセットのタイブレークでの惜敗。この一戦こそがこの7年間で、錦織が最も勝利に近づいた瞬間だった。
それからさらに8つの対戦を重ね迎えた、今大会。通算20度目の対戦を控え、錦織が漂わせたジョコビッチ戦に向かう機運は、5年前のクレーコートシーズンと、どこか似たものがある。
直近の東京オリンピックでの対戦は、スコア的には、2-6、0-6の完敗。ただ、スコアが試合内容を反映していないことは、試合を見た者に共通する思いだろう。何よりその思いを確信として胸に秘めるのが、錦織だ。
「なんとなくやりたいことは、この前の試合で、あのスコアながら頭には入っている。やりたいことがしっかりできて、自分のプレーができればチャンスはあるのかなと」
その「やりたいこと」とは、果たして何か?――
「彼との対戦では、我慢強く、なおかつ攻撃的にプレーしなくてはいけない。攻撃的に行くことが、鍵になる」と語るにとどめ、当然ながら、詳細を明かすことはない。もとより言葉以上に、ラケットでの意思表示を得意とする錦織である。
彼がプレーで答えを語り尽くした時、7年前の光景がノスタルジーではなく、今のものとしてコート上に描かれるかもしれない。
取材・文●内田暁
【PHOTO】全米オープン2021で躍進する錦織圭!
「彼は僕が今まで見た中で、最も素早く、最も才能のある選手の一人だ。彼との対戦で大切なのは、良いサーブを打つこと。そして、ボールの速度を、少し落とすこと。なぜなら彼は、速いボールを好物とするからだ。ベースラインから下がらず、早いタイミングで打ち返すのをね」
そう明瞭に分析した後、彼は、「良い挑戦を楽しみにしているよ」と不敵に笑った。
対する錦織にとってジョコビッチ戦は、逡巡と落胆、覚悟と希望、そして新たな試行錯誤の軌跡だ。2016年4月のマイアミ・マスターズ決勝で敗れた時は、「リスク覚悟で攻めるべきか、それとも我慢強く行くべきか……彼とやる時は、そのバランスがいつも難しい」と葛藤の胸中をこぼした。
続く5月のマドリード・マスターズでは、クレーの特性も生かし、高く跳ねるボールを多用して善戦。この試合で得た攻略法を試す機会は、翌週のローマ・マスターズで訪れた。序盤から、スピンを効かせたフォアで迷いなく攻める錦織は、多くの局面でジョコビッチを圧倒する。その痛快なプレーはファンを魅了したが、それでも結果は、ファイナルセットのタイブレークでの惜敗。この一戦こそがこの7年間で、錦織が最も勝利に近づいた瞬間だった。
それからさらに8つの対戦を重ね迎えた、今大会。通算20度目の対戦を控え、錦織が漂わせたジョコビッチ戦に向かう機運は、5年前のクレーコートシーズンと、どこか似たものがある。
直近の東京オリンピックでの対戦は、スコア的には、2-6、0-6の完敗。ただ、スコアが試合内容を反映していないことは、試合を見た者に共通する思いだろう。何よりその思いを確信として胸に秘めるのが、錦織だ。
「なんとなくやりたいことは、この前の試合で、あのスコアながら頭には入っている。やりたいことがしっかりできて、自分のプレーができればチャンスはあるのかなと」
その「やりたいこと」とは、果たして何か?――
「彼との対戦では、我慢強く、なおかつ攻撃的にプレーしなくてはいけない。攻撃的に行くことが、鍵になる」と語るにとどめ、当然ながら、詳細を明かすことはない。もとより言葉以上に、ラケットでの意思表示を得意とする錦織である。
彼がプレーで答えを語り尽くした時、7年前の光景がノスタルジーではなく、今のものとしてコート上に描かれるかもしれない。
取材・文●内田暁
【PHOTO】全米オープン2021で躍進する錦織圭!