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海外テニス

「たくさん泣いたけど、良い1年」大坂なおみの成長と日本国籍を選んだ背景を、海外ライターの言葉から探る

内田暁

2019.11.04

北京のフォトセッションでもダブルピースで応じる大坂。こういう姿は、日本の22歳の可愛らしさを感じさせてくれる。(C)Getty Images

北京のフォトセッションでもダブルピースで応じる大坂。こういう姿は、日本の22歳の可愛らしさを感じさせてくれる。(C)Getty Images

 また彼女は、大坂が正式に日本国籍取得に動いたことにも、全く驚かなかったという。

「私はなおみを16歳の頃から何度も取材してきたけれど、一度も彼女から、アメリカ代表への想いを聞いたことがない。彼女は常に、日本人としてのアイデンティティを大切にしていたから、今回の選択は当然だと感じた」

 なおやや余談になるが、ベトナム系アメリカ人としてサンフランシスコに育ったイェンにとって、アンデンティティとは、生まれた国や親族に規定されるのではなく、自分が決めるものだとの認識が強いという。

「アメリカは移民の国。イタリアに行ったことがなく、全くイタリア語が話せなくても『自分はイタリア人だ』と主張する人もいるし、逆に大人になってから移住しても、自分をアメリカ人だと規定する人もいる。私たちにとって、国籍とはそういうもの。その意味でも私は、なおみは日本人だと感じてきた」。
 イェンが大坂に向けるそのような視線は、やはり移民の国であるオーストラリアのテニスジャーナリスト、ダレン・ウォルトン氏も同様だ。

「なおみが日本国籍なのに、アメリカに住んでいるのはおかしいと言う人がいるかも知れないが、アジアを拠点としツアーを転戦するのは難しい。オーストラリアのトップ選手も大半は、アメリカかヨーロッパに拠点を持っている。なおみがアメリカに住むのは当然だろう」

 またウォルトンは、年間1位に座したアシュリー・バーティと大坂、そして全米オープン優勝者のビアンカ・アンドレスクの3人が、今後の女子テニスを牽引していくと見る。

「なおみは、全米と全豪の2大会で優勝した。これが、真の実力の証なのは間違いない。アッシュ(バーティ)も全仏とマイアミで優勝し、アンドレスクはインディアンウェルズと全米を取った。3人とも若いし、もしかしたらここにベンチッチが加わり、女子の“ビッグ4”になるのかもしれない」

 それは彼のみならず、多くのファンや関係者が共有する希望の未来だ。 

 大坂に向けられる周囲の視線は、今も、半年前とさほど変わってはいないだろう。

 ただ、ウインブルドンで味わった「底」から最浮上した今の彼女には、異なる景色として映っているはずだ。

「去年よりもたくさん泣いたけれど、去年より良い1年だった」と、彼女はふわりと笑みを浮かべる。今立つ高みをスタート地点として、未踏の路に足跡を刻みにいく。
 
取材・文●内田暁

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