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海外テニス

【レジェンドの素顔15】フォアハンドの名手、ステフィ・グラフを育てたのは厳格な父親だった│前編<SMASH>

立原修造

2023.12.15

精神的な強さと練習好きのステフィに指導者の父も期待を寄せていた。写真:スマッシュ写真部

精神的な強さと練習好きのステフィに指導者の父も期待を寄せていた。写真:スマッシュ写真部

テニスの全てを父ペーターから学んだ

 皮肉屋で年下の者など褒めたことがないパム・シュライバーがこう言っていた。「ナブラチロワの絶対的パワーを除けば、グラフのフォアハンドは女子プレーヤー最大の武器になっている」

 シュライバーだけでなく、クリス・エバートもグラフのフォアハンドを絶賛している。1つのショットにこれだけ話題が集まるのも稀なことだ。そのフォアハンドを教えたのは父親のペーターである。

 フォアハンドだけではない。テニスの全てをグラフはペーターから学んだ。それも“厳格な教育” という名のもとで――。とにかくペーターは厳しい父親だった。そもそも、ドイツではことさら家庭教育が厳格である。子どもを一人前に育てるために、親は鬼にもなるのだ。

 そして、しつけ以上に厳しかったのが、テニスである。自らテニススクールを開き、いつか自分の手で一流プレーヤーを育てたいと願っていたペーターにとって、グラフは“娘”以上の存在になっていたのだ。グラフはヨチヨチ歩きの頃からラケットを握り、来る日も来る日もコート上でボールを追いかけた。

 しかし、ペーターは単なる厳格な父親だっただけではない。なかなかのアイデアマンでもあった。その最たるものが、“幼児用特製ラケット”である。これはシャフトを短くカットして振りやすくしたもので、幼いグラフも難なくスイングすることができた。その特製ラケットも、グラフの成長につれて、普通のラケットに近づいていった。
 
 また、テニスを単調に押しつけるだけでは駄目だと考えたペーターは、「ボールを50回うまく続けたら、褒美に小熊の人形をあげよう」と言って、幼いグラフの興味をうまくかきたてた。褒美の人形で部屋がいっぱいになる頃には、グラフのテニスは地元でも相当なものになっていた。

 やがてペーターは、グラフの精神力の強さに舌を巻くようになった。まだ10歳にもならない女の子がコート上でもろさを見せない。年長者とテニスをしている時でも、先に崩れていくのはむしろ年長者の方だった。

「このまま順調に育てば、すごいプレーヤーになるかもしれない」

 ペーターはそう考えた。彼がもう1つ感心したのは、グラフの練習好きだった。ストップをかけなければ、いつまでも練習をしているのである。同じ年頃の娘はすぐに休みたがるのに、これは大変な違いだった。

 精神的強さと練習好き。この2つがうまく嚙み合えば、どんな分野でも秀でることができる。グラフにはさらに、ペーターという良き指導者が加わっていた。まさに、鬼に金棒である。

~~中編へ続く~~

文●立原修造
※スマッシュ1987年10月号から抜粋・再編集
(この原稿が書かれた当時と現在では社会情勢等が異なる部分もあります)

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