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海外テニス

【レジェンドの素顔15】“より高く!より速く!”グラフの強烈なフォアハンドができるまで│中編<SMASH>

立原修造

2023.12.21

グラフはフォアハンドを強化することで“決めるテニス”を形成していった。写真:スマッシュ写真部

グラフはフォアハンドを強化することで“決めるテニス”を形成していった。写真:スマッシュ写真部

――決めるテニス。その切り札として、ペーターが力を入れたのが、フォアハンドの強化であった。エースが取れるフォアハンドの育成を目指して、グラフへの特訓が始まった。ペーターは、できるだけ打点を高くとるように指示した。高ければ高いほど良いと力説した。

 テニスのレッスン書を見ると、そのほとんどが“フォアハンドの打点は腰の高さで”となっている。それが基本であることに間違いはない。しかし、それはアマチュアレベルでの話だ。プロを目指すのなら、それでは駄目だ、とペーターは考えた。

 高い打点でボールを捉えると、不思議なくらいボールに角度がついた。ヨコの角度も効果的だが、身長で劣る女子にとって、タテに角度をつけた方が一層効果は上がった。しかも、高い位置でボールを処理すれば、ラリーのサイクルが短くなるわけで、相手にボールを待つ余裕を与えなくなる。こちらが素早く動ければそれだけ、断然有利になるのである。
 
“より高く! より速く!”をモットーにしたグラフ父娘の特訓が続いた。グラフは厳格な父親の指示したことを全てこなし、さらにそれ以上のことを成し遂げるほど有能な少女だった。さらに、精神的強さと練習好きが上達を早めた。

 また、バック側にきた甘いボールをフォアハンドに回り込んで、逆クロスに打つ練習も毎日のように繰り返した。

「もっと素早く回り込め!思い切って逆クロスにエースを決めろ!」

 ペーターの叱陀激励が飛ぶ。子どもを自分の思う通りにさせようという親のエゴを彼はむき出しにした。そして、グラフはそのエゴに反抗もせず、ただひたすら従っていった。一枚岩のような強い絆を感じさせる親子だった。もし、グラフが他人のコーチについていたら、成長時代にここまで徹底した練習ができたかどうかは疑問だ。ペーターと親子だったからこそ、共に極限までエネルギーをぶつけ合うことができたのに違いない。

~~後編へ続く~~

文●立原修造
※スマッシュ1987年10月号から抜粋・再編集
(この原稿が書かれた当時と現在では社会情勢等が異なる部分もあります)

【PHOTO】高い打点から叩き込んだグラフのフォアハンド他、王者たちの希少な分解写真
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