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海外テニス

【レジェンドの素顔14】ステファン・エドバーグの前に立ちはだかるライバルたち│前編<SMASH>

立原修造

2023.12.06

エドバーグにとって、ライバルのベッカーとキャッシュの存在が大きな壁となっていた。写真:スマッシュ写真部

エドバーグにとって、ライバルのベッカーとキャッシュの存在が大きな壁となっていた。写真:スマッシュ写真部

 大一番におけるスーパースターたちの大胆さや小心をのぞいていくシリーズ「レジェンドの素顔」。前回に引き続き、ステファン・エドバーグを取り上げよう。

 1987年、エドバーグの前に大きく立ちはだかっていたのは、ボリス・ベッカーとパット・キャッシュの2人だった。この2人に勝たないことには、エドバーグの王座はない。しかし、どうもエドバーグはこの2人を苦手としている。彼が、このライバルたちに打ち勝つためにはいったい何か必要なのだろうか。

◆  ◆  ◆

まさに正念場――ライバルはベッカーとキャッシュ

 良きライバルを持つことは、何人もの優秀なコーチを得るのに等しい。ライバルとの対戦は大きな発奮材料となるし、自分の腕を磨く上での特効薬にもなる。テニスの世界はこれまで、数多くの宿命のライバルを生んできた。この頃はマッケンローとレンドルの対戦が、世界中のテニスファンを魅了してきた。

 2人は何から何まで好対照だった。生いたち、性格、プレースタイル――。その両者の違いがテニスコート上で交差する時、ドラマチックなプレーは生まれ、一進一退の攻防は白熱の度を増していった。

“あの2人はきっと犬猿の仲だよ”と観客はウワサした。ネットを挟んであれほど敵意をむき出しにしている2人が、オフコートで仲がいいはずがないというわけだ。事実、2人の仲の悪さがマスコミによって大いに喧伝され、それがまた試合の興味を募った。2人の仲が悪い間、2人はコート上で最高のプレーを見せた。
 
 しかし、いつしかマッケンローはその不仲に耐えられなくなった。守るべき家庭ができ生活が安定してくると、心から誰かを憎めなくなるらしい。所詮、勝負ごとは、とことん相手を憎んだ方が勝ちなのである。

 相手を憎めなくなったマッケンローは、自分の方からレンドルに歩み寄りを見せた。“これからは仲良くやろうぜ”というわけである。その時から、マッケンローの凋落は始まった。憎しみを持ち続けるにはタフでなければならない。そのストレスに、マッケンローは先に耐えられなくなったのだ。以来、レンドルの天下は続く。しかし、宿命のライバルを失った彼に、観客は冷たくなった。

 やがて、移り気な観客の興味は、エドバーグ、ベッカー、キャッシュの3人に熱く注がれるようになった。この3人が、絶対の3強を形成して、テニス界を大いに盛り上げてくれることを期待し始めたのだ。

 ライバルは2人。果たしてエドバーグは、等身大の自分から力強く脱皮することができるだろうか。ライバルを憎み、その憎しみの中から激しい闘争心を掻き立てることができるだろうか。何しろ“北欧の涼風を感じさせる男”である。これから立ち向かう荒波には、この爽やかさが足かせにならないとも限らない。まさに正念場である。
 
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