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海外テニス

「完全に病気よ」「ネット賭け屋は潰さないとダメ」洪水のようなヘイトメッセージに怒りの告発!テニスプロを苦しめるSNSの闇

レネ・シュタウファー

2019.11.14

SNS上の誹謗中傷に耐えられずうつ病を発症し、約5年間にわたり戦線離脱を余儀なくされたR・マリノ(2018年に現役復帰)。(C)Getty Images

SNS上の誹謗中傷に耐えられずうつ病を発症し、約5年間にわたり戦線離脱を余儀なくされたR・マリノ(2018年に現役復帰)。(C)Getty Images

 バチンスキーの怒りは収まらない。

「連中に言いたいわ。ラケットを手に取ってプレーしてみなさいよ。あなたたちは日々何をしているの。ただ金を賭けるだけ? 私はそんなことしない。次の試合に勝つため、毎日トレーニングに励んでる。それでも罵倒してくるって、もう完全に病気よ」

 全豪オープンの1回戦で彼女は、イタリアのカミラ・ジョルジにフルセットを戦い2-1で勝利を収めたが、これとてネットギャンブラーから「俺は2-0で賭けていたんだ。おかげで大損したじゃないか」として、攻撃の対象にされた。連中特有の幼稚さ丸出しの屁理屈だ。

 選手は自分の仕事に没頭し全力で試合に臨んでいる。誰にどう金を賭けるかは、賭ける者の判断である。賭けで負ければ金を失う。なかには大金を失う者だって出る。

 だが全ては自己責任。選手にはまったく関係ないことだ――。これがバチンスキーの言い分である。1ミリの間違いもない正論だ。

 問題解決のための最も簡単な方法は、ネット空間から自らを離脱させることだ。しかしこれは多くのデメリットを生むことになる。
 
 ツィッターやフェイスブックなどのソーシャルメディアを使うのは、「積極的に活動報告をするのを強制されているから」だとバチンスキーは説明する。

「フォロワーが多ければ多いほど、スポンサーが付いてくれるのよ。これは秘密でも何でもない事実。そして大部分のスポンサーが、私の小まめな発信を心待ちにしてくれている」

「テレビ局だってしっかりとソーシャルメディア上での存在感をチェックしてるわ。ランキング下位の選手に私が苦労して勝った時とか、反対に上位の選手に負けた時とかのコメントなんかは、ここから引用するわけだし……」

 テニスの勝敗で賭けをするのも、スポーツ選手と直に(そして簡単に)コンタクトを取るのも、インターネット誕生前には有り得なかった話である。

「昔は手紙を書いたり、チョコレートやハンカチーフを送って何とか選手の気を引こうとした。要するにプロセスが長かったわけよ」

「それが今では私のフェイスブックにアクセスして、キーボードを打って、エンターキーを押せば、ハイ終わり。嫌なコメントだとしてもブロックできない。でも中には親切なメッセージ、仕事の依頼、インタビューの申し込みも届いているし……」

 そこで彼女は、2台目の携帯電話を持つ計画を立てた。新しい携帯には彼女と懇意の友人知人しか着信できないように設定するという。

 ネット上のイジメに向き合えず、そのためにキャリアを断絶した女子選手の例をバチンスキーは知っている。カナダのレベッカ・マリノだ。メンタル面の強さには自信を持つバチンスキーならば、第2のマリノにはならないはずだが……。

文●レネ・シュタウファー
ITWA(国際テニスライターズ連盟)正会員で、経験豊富なスイス人テニスジャーナリスト。ヨーロッパを中心に第一線で活躍しており、フェデラーやヒンギスとも親交が厚い。2018年に発刊したフェデラーをテーマにした著書は、スイスでベストセラーとなっている。

構成・翻訳●安藤正純

※『スマッシュ』2017年4月号より転載

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