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海外テニス

「がんばって打ちました!」変幻自在のテニスで伊藤あおいがWTA1000の「カタール・オープン」予選突破!<SMASH>

内田暁

2025.02.09

臨機応変に状況を判断して勝利を見出す伊藤あおい独特のテニスでまた一歩世界に向けて前進したようだ(写真は2024年全日本選手権)。田中研治(THE DIGEST写真部)

臨機応変に状況を判断して勝利を見出す伊藤あおい独特のテニスでまた一歩世界に向けて前進したようだ(写真は2024年全日本選手権)。田中研治(THE DIGEST写真部)

 続くアブダブで対戦したケニンも、単複双方で活躍する選手。なにより、昨年10月のジャパンオープンで対戦したばかりであり、その時は伊藤が勝っている。この事実は、本人曰く「初見殺し」の伊藤にとっては、大きなマイナス要因だ。

「ドロー運が悪いなとは思ったんです。やっぱりケニンさんも私のことをわかっているので(気持ちが)切れない。多分、対策もされたと思うんですが、リターンがエグかったです」

 10月の対戦では、伊藤の代名詞にもなったフォアハンドのスライスやドロップショットで、ケニンを見事に崩した。伊藤の緩い球をムキになって叩くうちにプレーが崩れ、やがては普通のストロークでもミスするようになったのが、初対戦時のケニンだ。

 そのケニンが再戦では、「リターンは全て強打してきた」と伊藤が言う。ストローク戦でも打ち合いを避け、先に先に強打でしかけてくる。第1セットこそ競ったが、セカンドセットは相手に走られ6-7(4)、2-6での敗戦。そしてこのスコアにも、伊藤の分析がある。

「私のプレーは、ジャパンオープンの時と、ほぼほぼ一緒でした。ただ私は一度スコアを離されると、急に相手のショットが入ってきちゃうことが多いんです」

 この現象にも、理由がある。伊藤の、ペースを落としたボールの有効性は、試合の状況や相手の心境への依存度が高い。緊張した場面では相手のミスを誘えるが、逆に相手に心の余裕があると、チャンスボールになりかねない。対ケニンの場合は、初対戦のジャパンオープンでは前者に働き、二度目では後者となった。

 1月末に日本を発ち長期遠征に出た時は、「全敗を覚悟した」という伊藤。だが「超負けず嫌い」を自認する彼女が、これら実りの多い敗戦を得て、手をこまねいている訳はない。

「ここ2試合は積極性も欠いていた」ことを反省した上で、「カタール・オープン」予選初戦での伊藤は、恐らくはこれまでの彼女のイメージを一変するようなプレーを披露した。

 対戦したアンア・ボンダール(ハンガリー)は、現94位、最高50位。強打のみならず、ボレー等もそつなくこなすオールラウンダーだ。

 第1セットでの伊藤は、フォアのスライスも多く打つが、相手を崩すには至らない。すると第2セットでは、ベースラインから全く下がらず、跳ね際を叩いてフォアでも果敢に打ち合った。特に目立ったのは、フォアで逆クロスを打つや迷いなくネットに詰めて、ボレーを決める超速攻テニス。相手の戸惑いをも見逃さず第2セットを奪うと、第3セット終盤では、再びフォアのスライスやドロップショットを使っていった。

 試合序盤とは一転、後のなくなった相手にとっては、この揺さぶりが効果的。4-6、6-3、6-3の逆転勝利は、今回の遠征の、一つの集大成でもあった。
 
 この勝利が、伊藤が進むべき道を照らしただろう。予選2回戦のバルバラ・グラチェワ(フランス)戦では、序盤から強打とスライスのバランスが絶妙。6-2、6-4の快勝を手にした伊藤は、「スライスばかりではなく、緩急をつけないといけないですね」と言った。

 予選初戦の勝利については、伊藤は「がんばって打ちました!」と声を張って笑みを広げる。

「ヒザ、擦り傷だらけですよ」と顔をしかめるが、それはベースラインから意地でも下がらず、膝を地面につけて打ち返したがゆえの勲章だ。

 WTAツアー連戦という険しい道を敢えて選び、最もグレードの高いWTA1000で、本戦の切符をつかみ取った伊藤。その何がうれしいかと問うと、予想通り「お金です!」と即答するも、「普段戦えない、強い相手とできるのはうれしいです」とも続けた。その願いが天に届いたか、本戦初戦で当たるのは、ツアーきっての強打自慢にして、2017年全仏オープン優勝者のエレナ・オスタペンコ(ラトビア)である。

「日本で成人式を迎える」という、数年前に描いた未来は、実現できなかった。代わりに、異国の地で厳しく実利的な旅に身を起き、20歳の伊藤は今、WTAツアーへの通過儀礼の最中にいる。

現地取材・文●内田暁

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