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海外テニス

「一片の悔いもない」元1位のウォズニアッキが思い出深い全豪オープンでキャリアに幕。会場に響いた『スイート・キャロライン』

内田暁

2020.01.26

会場の観客が『スイート・キャロライン』を大合唱して、ウォズニアッキを見送った。(C)Getty Images

会場の観客が『スイート・キャロライン』を大合唱して、ウォズニアッキを見送った。(C)Getty Images

 29歳にしての引退を、周囲は早すぎるとささやく。だがウォズニアッキは、「私のテニスキャリアには、一片の悔いもない」と断言するのをためらわない。

「他人の目には、もっとああすれば良かった、もっとこういう手もあったと映るかもしれない。でも何があっても私は、毎日練習コートに立ち、試合を戦った。そして持てる力を出しつくした。だから自分のキャリアを振り返って、『成し遂げてきたこと全てを誇りに思える』って言える」

 その誇りを胸に、彼女は最後の戦いへと向かっていた。

 2年前の優勝者への敬意だろう、今大会では彼女の試合が始まる時にも、『スイート・キャロライン』がアリーナに響いた。思い出のメロディに乗せてコートに向かう彼女は、スカイブルーのネイルポリッシュを光らせながら、これまで常にそうであったように、全力で全てのボールを追う。

 初戦でクリスティ・アンを6-1、6-3で圧倒すると、2回戦では、前哨戦で準優勝し勢いに乗る若いダイアナ・ヤストレムスカを7-5、7-5で退けた。そして迎えた3回戦の相手は、チュニジアのオンス・ジャブール。ドロップショットの名手であり、チュニジアの、そしてアラブ女性のパイオニア的選手でもある。

 高い守備力と、コートを広範に用いる能力に長ける両者の対戦は、攻守が目まぐるしく入れ替わり、見るものを沸かせる好ゲームへと発展した。試合は最終セットの終盤まで並走状態が続くが、ゲームカウント5-6のウォズニアッキのサービスゲームで、ジャブールがドロップショットやロブを駆使し真骨頂を発揮する。最後はウォズニアッキのショットがラインを割り、約15年のキャリアに終止符が打たれた。
 
 哀切混じりの拍手と声援が降り注ぐなか、あの旋律がアリーナに流れ出す。「季節が春から夏に代わり、君がまだ一緒にいるなんて誰が予想できただろう」の歌詞が、彼女が歩んだ道に重なる。サビの「スイート・キャロライン」は、メルボルン・アリーナを埋めた観客の大合唱となった。

 そして歌詞は、こう続く。「素晴らしい時間は、過ごしている時は、そうとは気づかないというけれど」――。
 
 試合後の、最後のプレスカンファレンスでのこと。「コートを去るに際し、最も名残惜しいものは?」と問われた彼女は、こう答えた。「恐らくは、この戦いの緊張感。1-5のビハインドから巻き返し勝利した時のアドレナリン。これらはきっと、他の場所では得られないものだと思うから」

「でも……」と彼女は、こうも続ける。「この経験や思い出が、後に私の人生にどう影響していくは、まだわからない。2年後……5年後にまた集まって、私がどう感じているかを話しましょう」
 
 数年後に彼女が、現役時代をどう振り返るのか、それはまだわからない。ただ彼女は、この15年の年月が素晴らしい時間だと確信して、笑顔でコートに別れを告げた。
 
文●内田暁

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