ベンチのトレーナーからの指示も受けながら、チェンジオーバー間に望月がドリンク等で栄養補給をする。さらにコーチの山中夏雄氏が、ひときわ大きな声を掛けた。
「しんちゃん、去年のフレンチを思い出して!」……と。
去年のフレンチオープン――それはやはり望月が、予選を突破し本戦に上がった大会。その初戦で望月は、第8シードのフベルト・フルカチュ(ポーランド/現39位)に、6-4、3-6、6-3、0-6、3-6で惜敗を喫した。そして今回のハチャノフ戦も、第3セットまではその時と似たスコアライン。聖地での4セット以降の戦いは、1年前の自分を超えていく戦いでもあった。
決意も新たに向かった第4セット、望月はいきなりブレークのチャンスを手にする。右手でぽんと軽く投げたラケットを左手でキャッチする姿は、平常心そのもの。だがこのポイントは、リターンをネットに掛けて逃した。その後も2度のデュースを重ねたが、最後はセンターに叩き込んだサービスでハチャノフがキープ。
さらにゲームカウント2-2のゲームでも、望月は2度のブレークの機をつかんだ。惜しかったのは、最初のチャンス。ネットを取るまで狙い通りだったが、ボレーがサイドラインを割る。2度目のチャンスは、センターへのサービスで凌がれた。
このゲームを取り切れず、続くサービスゲームを落とした時、一つ大きな流れが反転したかに見えた。だが望月は、直後のゲームをブレークする。望月の勝利への期待に、最高潮を迎える客席のボルテージ。しかし次のゲームで、何かがついに噛み合ったかのように、ハチャノフが3連続ウイナーで再びブレークした。不安定な均衡状態で進んだ第4セットは、最後はハチャノフの手に。
そして運命の、第5セット。「取りたい気持ちから、硬くなってしまった」と後に望月が悔いる場面が、最初のゲームで訪れた。それまでになかったストロークミスが出て、許したブレーク。すると勢いを得たハチャノフは、迷いなく時速210km前後のサービスを、巧みにコーナーに打ち分けた。最後も208kmのサービスを放ち、返球をフォアで叩き込む。
試合開始から、3時間39分。持ち味をいかんなく発揮し、聖地を沸きに沸かせた望月の戦いは、6-1、6-7(7)、6-4、3-6、4-6のスコアで終幕した。ラケットバッグをかつぎ去るその背に、万雷の拍手を受けて――。
1年前のフルカチュ戦と比べた時、結果だけ見ればあの時と同じく、セットカウント2-1からの逆転負けではある。だが内訳が異なることは、傍目にも明確ではあった。
その上で、試合後の望月に「あの時と異なる手応えがあったか」と尋ねてみる。頷きながら質問に耳を傾ける望月は、迷いなくこう言った。
「今日は4セット目、5セット目も本当に互角に戦えたと思います。フルカチュ戦では4セット目、5セット目は体力的にもきつかったし、ちょっと差を感じた試合だった。それに比べたら今日は終盤もやり合えていましたし、あと少しだった。本当に、自分の成長をすごく感じられた試合だったと思います」
かつての自分を超えた、成長の実感。それこそが、望月が聖地から持ち帰る、最大の収穫だった。
現地取材・文●内田暁
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「しんちゃん、去年のフレンチを思い出して!」……と。
去年のフレンチオープン――それはやはり望月が、予選を突破し本戦に上がった大会。その初戦で望月は、第8シードのフベルト・フルカチュ(ポーランド/現39位)に、6-4、3-6、6-3、0-6、3-6で惜敗を喫した。そして今回のハチャノフ戦も、第3セットまではその時と似たスコアライン。聖地での4セット以降の戦いは、1年前の自分を超えていく戦いでもあった。
決意も新たに向かった第4セット、望月はいきなりブレークのチャンスを手にする。右手でぽんと軽く投げたラケットを左手でキャッチする姿は、平常心そのもの。だがこのポイントは、リターンをネットに掛けて逃した。その後も2度のデュースを重ねたが、最後はセンターに叩き込んだサービスでハチャノフがキープ。
さらにゲームカウント2-2のゲームでも、望月は2度のブレークの機をつかんだ。惜しかったのは、最初のチャンス。ネットを取るまで狙い通りだったが、ボレーがサイドラインを割る。2度目のチャンスは、センターへのサービスで凌がれた。
このゲームを取り切れず、続くサービスゲームを落とした時、一つ大きな流れが反転したかに見えた。だが望月は、直後のゲームをブレークする。望月の勝利への期待に、最高潮を迎える客席のボルテージ。しかし次のゲームで、何かがついに噛み合ったかのように、ハチャノフが3連続ウイナーで再びブレークした。不安定な均衡状態で進んだ第4セットは、最後はハチャノフの手に。
そして運命の、第5セット。「取りたい気持ちから、硬くなってしまった」と後に望月が悔いる場面が、最初のゲームで訪れた。それまでになかったストロークミスが出て、許したブレーク。すると勢いを得たハチャノフは、迷いなく時速210km前後のサービスを、巧みにコーナーに打ち分けた。最後も208kmのサービスを放ち、返球をフォアで叩き込む。
試合開始から、3時間39分。持ち味をいかんなく発揮し、聖地を沸きに沸かせた望月の戦いは、6-1、6-7(7)、6-4、3-6、4-6のスコアで終幕した。ラケットバッグをかつぎ去るその背に、万雷の拍手を受けて――。
1年前のフルカチュ戦と比べた時、結果だけ見ればあの時と同じく、セットカウント2-1からの逆転負けではある。だが内訳が異なることは、傍目にも明確ではあった。
その上で、試合後の望月に「あの時と異なる手応えがあったか」と尋ねてみる。頷きながら質問に耳を傾ける望月は、迷いなくこう言った。
「今日は4セット目、5セット目も本当に互角に戦えたと思います。フルカチュ戦では4セット目、5セット目は体力的にもきつかったし、ちょっと差を感じた試合だった。それに比べたら今日は終盤もやり合えていましたし、あと少しだった。本当に、自分の成長をすごく感じられた試合だったと思います」
かつての自分を超えた、成長の実感。それこそが、望月が聖地から持ち帰る、最大の収穫だった。
現地取材・文●内田暁
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