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海外テニス

【レジェンドの素顔8】エバートの情熱を再燃させた最高のライバル、ナブラチロワ|後編<SMASH>

立原修造

2021.07.11

エバートとナブラチロワはお互いに刺激を与えられながら成長していったようだ。写真:THE DIGEST写真部

エバートとナブラチロワはお互いに刺激を与えられながら成長していったようだ。写真:THE DIGEST写真部

 食事にはまるで無頓着で、ハンバーガーばかりほおばっては車を乗りまわしていたナブラチロワを見事に変身させたのはクリスである。レベルアップのための過酷なプログラムを組み、ナブラチロワがそれに耐えられたのも、ひとえにクリスに勝ちたいためだった。

 そして、それを成し遂げたナブラチロワにとって、クリスこそ“テニスの恩人”であると言っても差しつかえないだろう。それを誰よりも感じているのはナブラチロワ自身のはずだ。しかし、クリスの方はどうか。ナブラチロワからは何の恩恵もこうむっていないのか。そんなことはない。ナブラチロワがクリスから受けた恩以上に、クリスはナブラチロワから十分な見返りをもらっている。

 結婚したらクリスは、子どもがしきりに欲しい時期があった。夫のジョンも大賛成で、2人はそのことをよく話し合い、計画を練ったりもした。しかし、ナブラチロワの存在がその計画を実りのないものにした。

 ナブラチロワが爆発的な活躍を始めたことで、クリスはそれどころではなくなったのである。“女王”の名をほしいままにしてきたクリスにとって、もう一人の“女王”の存在を指をくわえて見てはいられなくなった。つまり、ナブラチロワ自身がクリスにとっての起爆剤になったのである。これをさして、クリスはナブラチロワから十分な見返りを受けたと言っているのだ。
 
 しかし、やっかいな問題も一方では生じてきた。ロイド夫妻の仲が危なくなったのだ。夫のジョンとしては、クリスに早くリタイアしてもらって平穏な家庭を築きたい。クリスも一時期そう思ったが、今はとても応じられない。徐々に深まってきた夫婦の溝は次第に決定的になった。

 クリスは自分が変身させたナブラチロワによって、逆に人生まで変えさせられようとしている。払うべき代償はあまりに大きいが、やはりクリスのからだの隅々にはテニスがしみこんでいる―――。

「いつ引退するのかってよく聞かれるけど、私にはとても答えられません。6歳からずっとやっているんですからね、そうかんたんにやめられないのも当然のこと。でも、こればかりはプレーヤーの宿命ですから、いつかは判断を下さなければならないでしょう」

 クリスは1986年全仏オープンに31歳で優勝し、これが最後のグランドスラムタイトルとなった。1988年全豪オープンでは決勝に進出したが、グラフに敗退。クリスは1989年に引退した。

文●立原修造
※スマッシュ1987年3月号から抜粋・再編集

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