なお、いずれも「センス」や「手の感覚」が称賛されてきたヒンギスとラドワンスカだが、それらをいかに獲得してきたか、また、それらは天性のものかという命題に対する解釈の差異が興味深い。
天才少女の名を欲しいままにしてきたヒンギスは、「私は小さい頃に、ドロップショットなどを何万本と打ってきた。そうしないと上達しない」と明言する。また、ロジャー・フェデラーなどスイスには天才肌の選手が多い理由について問われると、次のように返答した。
「スイスは山と自然に囲まれた国で、意識しなくても小さい頃からハイキングや登山、それにスキーなど多くのスポーツをしながら、色んな身体の動かし方を体得できる環境にある。それに、ロジャーはサッカー、私は乗馬を子供の頃からやっていた。そういうのも生きていると思う」 一方で、自身の持つ才能は「天性のもの」と言うのは、ラドワンスカだ。「良い手の感覚を練習で体得するのは難しい。私が練習してもパワーテニスができないのと同じこと。良い感覚は、それを持って生まれたか、あるいは持っていないかという類のもの」。
それが、“ホット・ショットの女王”と呼ばれた彼女の見立てである。
2人の意見のどちらが正しいかはさておき、このように異なる分析が出てくるのもまた、現在の女子テニス界が多様性に富み、多くの議論を生む土壌があるからだろう。
豊かな個性が流動的に立場を入れ替え、周囲の識者やファンたちも引き込みながら、カレイドスコープのようにその時々で異なるアートを描く――それが、今の女子テニス界だ。
取材・文●内田暁
天才少女の名を欲しいままにしてきたヒンギスは、「私は小さい頃に、ドロップショットなどを何万本と打ってきた。そうしないと上達しない」と明言する。また、ロジャー・フェデラーなどスイスには天才肌の選手が多い理由について問われると、次のように返答した。
「スイスは山と自然に囲まれた国で、意識しなくても小さい頃からハイキングや登山、それにスキーなど多くのスポーツをしながら、色んな身体の動かし方を体得できる環境にある。それに、ロジャーはサッカー、私は乗馬を子供の頃からやっていた。そういうのも生きていると思う」 一方で、自身の持つ才能は「天性のもの」と言うのは、ラドワンスカだ。「良い手の感覚を練習で体得するのは難しい。私が練習してもパワーテニスができないのと同じこと。良い感覚は、それを持って生まれたか、あるいは持っていないかという類のもの」。
それが、“ホット・ショットの女王”と呼ばれた彼女の見立てである。
2人の意見のどちらが正しいかはさておき、このように異なる分析が出てくるのもまた、現在の女子テニス界が多様性に富み、多くの議論を生む土壌があるからだろう。
豊かな個性が流動的に立場を入れ替え、周囲の識者やファンたちも引き込みながら、カレイドスコープのようにその時々で異なるアートを描く――それが、今の女子テニス界だ。
取材・文●内田暁