「アフリカ出身女性初のグランドスラムファイナリスト」、「オープン化以降初のアラブ系グランドスラム単決勝進出者」
それらが、彼女が直近に打ち立てた、フロンティア最前線の旗である。
さて……ここまでが言わば、前置きである。
転機の糸を新たな転機と決断で紡いできたような、彼女のキャリア。その中で、最も重要なターニングポイントとは――?
今年のウインブルドンで、世界2位になった彼女にたずねた。
その問いに27歳(当時)のエンターテイナーは、ユーモアの色調を幾分抑えた口調で、応じた。
「正直に言うと、何か一つだけを取り上げるのは難しい。なぜなら、あまりに多くの人々が、今日に至るまでわたしを助けてくれたから。もちろん、ITFの基金は大きかった。トップ100に入り、多くの事が好循環したきっかけだった。
わたしは、遅咲きだったと感じている。わたしのテニスは他の選手とは違うから、適応するのに時間が掛かった。その中で、フィットネスコーチである夫のサポートも大きかった」
それら具体的な支援に言及した彼女は、やや言葉を区切り、「ただ……」と続けた。
「思い返せば2019年が、わたしの頭の中がガラリと変わった時だったと思う。あの頃のわたしは、60位や80位に居る自分に、つくづくうんざりしていた。自分のいるべき場所はトップ10だと、本気で思った。
わたしは『もう十分だ! 今こそ自分を律し、本気で自分を信じる時だ』と言い聞かせた。すると2020年の全豪オープンで、本当にベスト8に入れた。
そこから、全てが噛み合い始めた。多くのツアーで勝てるようになり、成長を感じられた。幸運なことに、わたしには素晴らしいチームもいる。コミュニケーション面でも文化面でも、わたしを理解できる人たちに恵まれた」
環境の変化、経済的支援……人々はともすると、それら可視的な物に、変化の理由を求めがちだ。だが、真に彼女を変えた因子は、彼女自身の内にあったという。
多彩な業師が、未踏の荒野を切り開く上で手にした、最後にして最強の武器――それは、地平の向こうを指し続ける、強き心の針だった。
取材・文●内田暁
オンス・ジャバー/1994年8月28日生まれ。チュニジア出身。身長167cm。右利き・バックハンドは両手打ち。ジュニア時代は公的機関の援助を受けながら成長。フォアハンド、ボレー、スライス、ドロップショットを得意とする女子では珍しい技巧派で、2022年は7大会で決勝進出を果たし2大会で優勝。ウインブルドンと全米オープンでは準優勝した。(世界ランキング2位/2023年1月9日付)
※スマッシュ2022年11月号より抜粋・再編集
【画像】全米オープン2022で熱戦を繰り広げたジャバ―たち女子選手の厳選写真!
それらが、彼女が直近に打ち立てた、フロンティア最前線の旗である。
さて……ここまでが言わば、前置きである。
転機の糸を新たな転機と決断で紡いできたような、彼女のキャリア。その中で、最も重要なターニングポイントとは――?
今年のウインブルドンで、世界2位になった彼女にたずねた。
その問いに27歳(当時)のエンターテイナーは、ユーモアの色調を幾分抑えた口調で、応じた。
「正直に言うと、何か一つだけを取り上げるのは難しい。なぜなら、あまりに多くの人々が、今日に至るまでわたしを助けてくれたから。もちろん、ITFの基金は大きかった。トップ100に入り、多くの事が好循環したきっかけだった。
わたしは、遅咲きだったと感じている。わたしのテニスは他の選手とは違うから、適応するのに時間が掛かった。その中で、フィットネスコーチである夫のサポートも大きかった」
それら具体的な支援に言及した彼女は、やや言葉を区切り、「ただ……」と続けた。
「思い返せば2019年が、わたしの頭の中がガラリと変わった時だったと思う。あの頃のわたしは、60位や80位に居る自分に、つくづくうんざりしていた。自分のいるべき場所はトップ10だと、本気で思った。
わたしは『もう十分だ! 今こそ自分を律し、本気で自分を信じる時だ』と言い聞かせた。すると2020年の全豪オープンで、本当にベスト8に入れた。
そこから、全てが噛み合い始めた。多くのツアーで勝てるようになり、成長を感じられた。幸運なことに、わたしには素晴らしいチームもいる。コミュニケーション面でも文化面でも、わたしを理解できる人たちに恵まれた」
環境の変化、経済的支援……人々はともすると、それら可視的な物に、変化の理由を求めがちだ。だが、真に彼女を変えた因子は、彼女自身の内にあったという。
多彩な業師が、未踏の荒野を切り開く上で手にした、最後にして最強の武器――それは、地平の向こうを指し続ける、強き心の針だった。
取材・文●内田暁
オンス・ジャバー/1994年8月28日生まれ。チュニジア出身。身長167cm。右利き・バックハンドは両手打ち。ジュニア時代は公的機関の援助を受けながら成長。フォアハンド、ボレー、スライス、ドロップショットを得意とする女子では珍しい技巧派で、2022年は7大会で決勝進出を果たし2大会で優勝。ウインブルドンと全米オープンでは準優勝した。(世界ランキング2位/2023年1月9日付)
※スマッシュ2022年11月号より抜粋・再編集
【画像】全米オープン2022で熱戦を繰り広げたジャバ―たち女子選手の厳選写真!