「大学でも、種目によっては参加できない体育実技クラスもあったんですが、宏美が先生と相談して『こういうふうにルールを変えたらできるだろう』と提案してくれたり。身の周りのことや学校生活も含めて、一番近くで私の障壁を見てサポートしてくれた存在でした。それでも宏美の中では、何とかしてあげたかったけれど、できなかったという思いもあったみたいで、それを卒論テーマに持っていったのかな……って」
私、宏美の卒論読んでいないので、本当のところはわからないんですけれど――と、船水は照れたように笑った。
船水は「わからない」と謙遜したが、阿部の卒論の主眼はまさに、そこにある。
「車いすを使用する大学生アスリートが学生生活で感じるバリアの現状と課題を提示することで、車いすを使用する学生が不自由なく学べる環境づくりを行うことを目的とした」
彼女の卒論の【目的】項目には、そのように記されている。
具体的には、学生が日常生活で辿るキャンパス内の移動経路等を洗い出し、バリアフリーの実現性について検証する。さらには、スポーツ実技クラス参加の可否についても、現状と課題を考察したという。
ただ阿部は、「終わってみれば、もっとこうすれば良かったなぁと思いますが、その時は気付かないことばかりでした。やり直したいです」とこぼす。その悔いは、今後彼女がプロとして世界のテニスを転戦していくなかで、実地で解決していく課題かもしれない。
テニスのグランドスラムは、“パラ種目”と呼ばれる車いす競技が同時期同会場で開催される、スポーツ界全体で見ても珍しいイベントだ。そのグランドスラムでの体験を、船水は次のように語る。
「観客の数も含め、環境や雰囲気が他の大会と全然違うので、そこに圧倒されてしまって。プレーできることがうれしいとともに、もっとここに見合うテニスを自分が築き上げないといけないんだなって。出ているだけになっているのがすごく不甲斐ないなっていうのは、毎回思います。
雰囲気はもうお祭りみたいですし、声を掛けてくれる観客の方も温かい。すごい世界だなって思いますし、テニスを選んでいなかったらグランドスラムの場所にも来ていないので、そこはすごく良かったと思います」
大学で出会った船水と阿部は、この春にそれぞれの旅立ちを迎え、新たな道を歩み始める。それは2人にとって、一つの別れ。それでもテニスという道しるべがある限り、二つの足跡はいつかきっと、グランドスラムで交わる。
取材・文●内田暁
【PHOTO】車いすの国枝、船水も! 2022全米オープンで奮闘する日本人選手たちの厳選写真
私、宏美の卒論読んでいないので、本当のところはわからないんですけれど――と、船水は照れたように笑った。
船水は「わからない」と謙遜したが、阿部の卒論の主眼はまさに、そこにある。
「車いすを使用する大学生アスリートが学生生活で感じるバリアの現状と課題を提示することで、車いすを使用する学生が不自由なく学べる環境づくりを行うことを目的とした」
彼女の卒論の【目的】項目には、そのように記されている。
具体的には、学生が日常生活で辿るキャンパス内の移動経路等を洗い出し、バリアフリーの実現性について検証する。さらには、スポーツ実技クラス参加の可否についても、現状と課題を考察したという。
ただ阿部は、「終わってみれば、もっとこうすれば良かったなぁと思いますが、その時は気付かないことばかりでした。やり直したいです」とこぼす。その悔いは、今後彼女がプロとして世界のテニスを転戦していくなかで、実地で解決していく課題かもしれない。
テニスのグランドスラムは、“パラ種目”と呼ばれる車いす競技が同時期同会場で開催される、スポーツ界全体で見ても珍しいイベントだ。そのグランドスラムでの体験を、船水は次のように語る。
「観客の数も含め、環境や雰囲気が他の大会と全然違うので、そこに圧倒されてしまって。プレーできることがうれしいとともに、もっとここに見合うテニスを自分が築き上げないといけないんだなって。出ているだけになっているのがすごく不甲斐ないなっていうのは、毎回思います。
雰囲気はもうお祭りみたいですし、声を掛けてくれる観客の方も温かい。すごい世界だなって思いますし、テニスを選んでいなかったらグランドスラムの場所にも来ていないので、そこはすごく良かったと思います」
大学で出会った船水と阿部は、この春にそれぞれの旅立ちを迎え、新たな道を歩み始める。それは2人にとって、一つの別れ。それでもテニスという道しるべがある限り、二つの足跡はいつかきっと、グランドスラムで交わる。
取材・文●内田暁
【PHOTO】車いすの国枝、船水も! 2022全米オープンで奮闘する日本人選手たちの厳選写真