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海外テニス

全米4強シェルトンの父親が明かす指導者としての哲学「人間として成熟すれば、後からテニスはついてくる」<SMASH>

内田暁

2023.09.07

父親としての理念を語ったブライアン氏(右)。全米で快進撃を見せているベン(左)も日頃大切にしている思いを明かした。(C)Getty Images

父親としての理念を語ったブライアン氏(右)。全米で快進撃を見せているベン(左)も日頃大切にしている思いを明かした。(C)Getty Images

 息子同様に柔和な笑顔が印象的な父親は、一語一語に思考を落としこむような、丁寧な語り口でこう応じてくれた。

「私と妻のリサが子どもたちに第一に望むのは、まずはバランスの取れた少年、少女になり、後にバランスの取れた若者に、そして大人に育って欲しいということです。

 学校に行き、友だちを作り、社会性を身につける。正しく安定した教育を受けさせることを、スポーツ以上に重要視してきました。やがて私たちも、スポーツは多くのことを教えてくれるとも気付きました。

 子どもたちに、プロのアスリートになってほしいとは、あまり考えていませんでした。それよりも人生を楽しみ、周囲の人たちを大切にできる人に育ってほしいと思っていたのです」

 父としての理念をそう述べると、大学テニス部の監督も歴任した彼は、指導者としての哲学にも言及した。

「私は常に、内から外へ進むアプローチ法を取っています。まずは身の周りで勝てるようになったら、少し外側に足を延ばす。過程を飛ばしたことはありません。

 多くの人は、身近な人や仲間と対戦することの重圧を避ける傾向があります。同じ町や、道を渡った先に上手な子がいるのに、練習したこともないという人も少なくありません。比べられることを恐れるからです。ですが私たちが大切にしているのは、成長の過程です。人間として成熟すれば、後からテニスはついてくると信じています」
 
 そのような父の柔らかくも確固たる信念は、間違いなく息子の中にも息づいている。

「大学を経てプロ転向したキャリアの中で、何を学んできたか?」と問われた準決勝進出者は、「深い質問だね」と小さくつぶやくと、次のように言葉をつむいだ。

「大学とプロでは、大きな違いがあると気付いた。大学では、自分よりも大きなもののためにプレーしている。チームメイトを思い、周囲の人に感謝する。それが大学で学んだ最も大切なことだと思う。

 対してプロでは、自己中心的になってしまいがち。全てが選手を中心に全てが回っているから。だから僕は、人として正しい行動を取ることを、忘れないように気をつけている。ドアを開け閉めしてくれる方、会場の見回りをしてくれるセキュリティの方、食事を運んでくれる人など、全ての人たちに感謝を伝えたいと思っている。自分の成功だけではなく、周囲の人への気配りを忘れないようにしたいなって」

 彼がこの誓いを実践していることは、会見での言動やファンサービスに徹する姿、そして漏れ聞く周囲の評判からも明らかだろう。

 踏破してきたユニークな足跡の先に、いかなる未来を描くのか? 

 テニスプレーヤーとしてだけでなく、人としても、そして一つのモデルケースとしても、魅力的なスター候補が誕生した。

現地取材・文●内田暁

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