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海外テニス

西岡良仁とダニエル太郎、全米オープンの戦いに見た二人の異なるテニス哲学<SMASH>

内田暁

2022.09.01

残念ながら西岡(左)とダニエル(右)の全米は初戦で幕を下ろしたが、戦いを通して学ぶものもあったという。(C)Getty Images

残念ながら西岡(左)とダニエル(右)の全米は初戦で幕を下ろしたが、戦いを通して学ぶものもあったという。(C)Getty Images

 3週間前のシティ・オープンで決勝に駆け上がった痛快なテニスを、全米オープン会場に足を運んだ熱心なテニスファンは、よく知っていたのだろう。

 全米オープン開幕日の、第1ゲーム。10番コートに組まれた西岡良仁対アレハンドロ・ダビドビッチフォキナの一戦は、コートサイドのベンチやスタンドも観客で埋まり、期待感に満たされた。勢いに乗る小柄な戦略家と、伸びしろ豊富な23歳。その初対戦の顔合わせは、確かに好ゲームの匂いがした。

 だが西岡陣営には、対戦前から「難しい相手を引いた」との思いがあったようだ。

 現在39位のダビドビッチフォキナは、飛びぬけた武器はない代わりに、穴も少ないストローカー。相手の弱点を突き、精神面にも揺さぶりをかける西岡にとっては、組みやすい相手ではないというのが、その理由。加えて初対戦であることも、策士の西岡にとってはマイナス材料だった。

 戦前に抱いた予感は、実際にコート上で対峙した時に、実感となる。

 左腕からのストロークで相手を徐々に追い出して、オープンコートに打ち込むのは西岡が頼るポイントパターンの一つ。だが、足が速くフォアが強いダビドビッチフォキナには、その方程式が効きにくかった。

「思ったより、僕が主導権を握れる数が少なくて。彼は足が速いので、僕がダウンザラインを打ったところで、フォアでしっかり振り抜いてくる。僕のやりたい、崩していきたい展開が、彼にはあまり効かない」

 それが、西岡がコート上で覚えた皮膚感覚。そのなかでも糸口を見つけようと工夫を凝らすが、スライスでのリターンがなかなかネットを越えてくれない。

 試合中に抱えたフラストレーションを解消できないまま、結果はストレートでの敗戦となった。
 
 試合後の西岡は、意外なまでにすっきりした表情で、淡々と試合を振り返る。

「よくいう、相性もあるのだと思います」と言い、「いつもの展開と違うことをしなくてはいけないところで、今日はそれができなかった」とも認めた。

 確かに西岡は、デミノーやフリッツなど、本人曰く「格上の選手なのに負けたことがない謎な現象」を起こしてきた選手だ。ならば、西岡の球種や展開を得手とする相手がいるのも、不思議なことではない。

 その現実を虚心坦懐に受け止めた上で、「収穫も多かったです。初めて対戦する相手のデータも頭に入ったので」と断言する。

 シティ・オープンでルブレフやハチャノフを破った実績から、上位選手にも「ストロークでコントロールできる」という手応えはつかんだ。その上で見いだす課題は、「穴がなく、一球一球しっかり打てる選手」をどう崩すか。テニスの土台の足固めをした今の西岡は、いずれその解も見つけられると確信している様子だった。
 
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