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海外テニス

ウインブルドン前哨戦で青山修子/柴原瑛菜が優勝!「欲しがらない」を合言葉に戦って気が付けば頂点へ<SMASH>

内田暁

2023.06.19

一戦ごとに自分たちに課題を与えながら臨んだ、芝開幕戦の「リベマ・オープン」で今季初タイトルを手にした青山(左)/柴原(右)ペア。撮影=内田暁

一戦ごとに自分たちに課題を与えながら臨んだ、芝開幕戦の「リベマ・オープン」で今季初タイトルを手にした青山(左)/柴原(右)ペア。撮影=内田暁

「芝自体に対してやりづらさはなくなってきましたが、少しでも躊躇したらうまくいかないシーンもあった。自分がやるべきことをもう少し割り切ってやり続けることを、もっと形にしていきたいなと思います」

 このコメントを耳にした時、多くの人が連想するのは、敗戦後の弁ではないだろうか?

 実際にはこれは、青山修子の女子テニスツアー優勝後の言葉。

 オランダのスヘルトーヘンボスで開催された「リベマ・オープン」は、青山と柴原瑛菜ペアにとっての今季芝開幕戦。

 2回戦の頃までは「まだ心地よくない」と言い、一つひとつ課題に取り組んできた2人は、気づけば頂点に君臨していた。

 優勝にもなお己に厳しい青山に対し、柴原の表情は柔らかい。

「毎試合、私のゴールは、前の日よりも少しでも良くなろうということ。もう目の前のポイントに集中し、その時々にどうやったらうまくなるのかを考えてやっていたら、うまくいった。毎回そういう感じで、自分にきつくなりすぎずテニスをやったら、結果も良かったです」

 柴原のこの言葉が暗示するのは、先の全仏オープンでは、どこかで自分らしさが出せなかったという悔い。

「そうですね、やっぱり全豪オープンで決勝に行ったぶん、もうちょっといいプレーをしたいと思ってしまった。ミスした時に、気持ちが重くなりすぎちゃったかなっていう…」

 全仏オープンは昨年、混合ダブルスで優勝した良い思い出の染み込む場所でもある。

「今年は、女子ダブルスで優勝」という自身への過度な期待は、いつもポジティブな柴原の心持を、どこか重くしていたようだ。
 
 結果、全仏では2回戦敗退。だからこそ今大会に入る前は、「気持ちを切り替えた」と柴原は言う。

「芝(のコート)は、どうしてもミスが多くなる。自分に厳しくなるのは簡単なので、そうならないように意識した」

 そのような自覚的な意識の変化が、さっそく奏功したことを彼女は素直に喜んだ。

 プレー面で言うと、今大会でよく耳にしたのが、安藤将之コーチがコートサイドから飛ばす「欲しがらない!」という助言だった。

 その真意を尋ねると、安藤コーチは「相手のミスを欲しがらない」の意だと解説する。

「相手のミスを期待すると、どうしてもボールを入れにいってしまう。そうではなく、自分から取りに行くという意識を持たせたい」

 そのための“声掛け”だった。

 その声が聞こえると、青山も「自分がボールを入れにいっていたことに気づかされる」という。

「どんなに強い選手でも、ポイントを欲しがってボールを置きにいったり、相手のミスをどこかで期待するところはあると思います。でもミスを期待して消極的になると、自分の強みをなくしてしまう。そういうところを気を付けないと、流れが一気に変わったりもします」

 そのような流れの反転は、スピード感のある芝では特に起きやすい。優勝してもなお緩む気配のない青山の緊張感は、そのような芝の怖さを知るがゆえに、いつも以上に大会を通じて気持ちを張り詰めていたからだろう。

 とはいえ、優勝した夜くらいは軽く祝勝会かと思いきや、「明日ベルリンに移動なので、今晩はパッキングです」と2人は苦笑いをこぼす。

 アウトプット時の印象こそ異なるが、青山と柴原に通底するのは、常に「次」を見据えてポジティブな姿勢。

 芝シーズンの最終地点であるウインブルドンまで、まずは全力で走りぬける。

現地取材・文●内田暁

【画像】青山/柴原ら、世界で戦う熱き日本人プレーヤーたち!

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