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海外テニス

全豪オープン出場選手を悩ますボールスピード!全米よりも2段階速いテニスコートの秘密<SMASH>

内田暁

2024.01.20

全豪の舞台となるメルボルン・パークのコートでは『グリーンセット』と呼ばれるコートが使用されている。(C)Getty Images

全豪の舞台となるメルボルン・パークのコートでは『グリーンセット』と呼ばれるコートが使用されている。(C)Getty Images

「このコートは、グランドスラムで最も速い」

 3年前、「メルボルンの帝王」ことノバク・ジョコビッチは、多くの選手の声を代弁するかのように、そう言った。フランシス・ティアフォーも、「北米のハードコートよりも遥かに速いと幾分困惑ぎみ。今大会でも、キャリアで初めてメルボルン・パークを訪れる選手たちからは、「速い」との声が上がった。

 その一方で「エースが全然取れない」と嘆く、ビッグサーバーの声も聞こえてくる。男子シングルス2回戦で敗れたタナシ・コキナキスも「僕がこんなにエースが取れないなんて、滅多にないこと」と嘆いた。

 果たして全豪オープンのコートは、着地後のボールがそんなに速いのか、それとも……? その疑問に誰よりも正確に答えられるのは、この人を置いて他にいないだろう。

「ミディアム・ファーストです。それが、大会を運営するテニス・オーストラリア(豪テニス協会)の要望ですから」

 明瞭にそう答えるのは、全豪オープンのコート施工を請け負う、『グリーンセット(GreenSet)』社のCEO、ハビエル・サンチェス氏である。グリーンセットは、ATPファイナルズを含む多くの欧州インドアコートと、シンシナティ・マスターズで採用されているハードコート。日本でも、有明コロシアム改修時に仮設コートで開催されたジャパンオープンや東レパンパシフィックオープン、地方開催のデビスカップやフェドカップ等にも使われてきた。
 
 グリーンセットのコートの特性は、スピード調整の自由度が高いこと。ペンキ状の素材を刷毛で塗ってコートを作成する行程で、精緻に変えることができるという。

「大切なのは層の多さではなく、どのくらいの量のマテリアル(素材)を、どれくらいの厚さで塗れるか」(サンチェス氏)であり、その繊細な加減こそが、ボールの跳ね方や速さ/遅さを決めていく。

「マテリアルそのものは常に同じですが、表面がラフだと、ボールはコートに食い込み高く跳ねます。速いコートというのは、ボールが着地した時に少し滑るような感じになり、低く跳ねる状態です」

 そうした「速度調整」をする上で、重要になるのが、「ボールとのコンビネーション」だとサンチェス氏が言う。今大会の使用球は、『ダンロップ オーストラリアオープン』。

「ダンロップのボールは、ウイルソンに比べると少し重いので、同じサーフェスでも速さが変わります。ですから我々は全豪のサーフェスを作る際に、ダンロップのボールを使って何度もテストをし、確認しました」

 そのような作業を進め、ボールとサーフェスの相性を見極めるうえでは、サンチェス氏自身の「テニスプレーヤーとしての経験」も大きくものを言う。社長の名を見た時点でピンと来た方も多いかもしれないが、サンチェス氏はシングルス23位、ダブルス9位を記録するスペインの元トッププレーヤー。妹は元世界1位の、アランチャ・サンチェス・ビカリオである。
 
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