バックのアプローチショットを打つと、迷いなくボレーを決めるべく、彼は前へと走りだした――。
もっとも相手の返球は、ネットを越えることはない。望月慎太郎は駆ける足を緩めると、身体を反転させ、自陣に向け両手で拳を握り締めた。「ウインブルドン」予選決勝で、ドミニク・ストリッカーに7-6(3)、3-6、6-2、6-4のスコアで勝利した瞬間。彼がウインブルドン予選を突破し本戦出場を決めたのは、2年ぶり2度目のことである。
「良いリズムだよ」「力抜いて、前に前に」
予選3試合を通じ、山中夏雄コーチの穏やかな声が、コートサイドから望月へと適宜かけられていた。山中コーチは盛田正明テニスファンドのコーチとして、IMGアカデミーでジュニア時代の望月を指導。6年前には2人で、ウインブルドン・ジュニア部門の頂点に立った、忘れがたい思い出もある。
その山中氏が、“プロテニスプレーヤー”となった望月の陣営に加わったのは、昨年末。もちろん、久々に2人で共有する時間に懐かしさは漂う。だが同時に望月は、「時間が経ち、関係性も変わったので、新鮮な感じもする」と言った。
その思いは、山中氏も同じ。
「以前は保護者的な立場でもありましたが、今は、対等な人間対人間という関係性なので」とコーチは言った。
試合になればもちろん、勝つことも負けることもある。ただ2人が欠かさず継続してきたのは、「コミュニケーションをしっかり取ること」。その中で望月は、「山中コーチは、自分らしさを見いだしてくれる。僕の個性や“人と違うこと”を求めてくれる」と感じていると言った。
では山中コーチが望月に見いだす、「彼らしさ」や武器とは、何か?
「感性の良さですね」と、コーチが言う。
「彼のボールの当たりの良さ、目の良さ、ひらめきなどの感覚...それらを取り戻してほしいと思ってました」
それが、コーチが望月と言葉を重ねる中で、伝えてきたことだという。
このコーチの言葉を望月本人に伝えた上で、「取り戻した自分の武器や“感性”とは何か?」と問うと、彼はじっくり考えつつ、篤実に言葉を紡いだ。
「一番は本当に、自分のテニスで戦えていること。やはりプロになってから、勝ちたい、早く上に行きたいという思いが強くなり、消極的になる場面もコートの中で増えてきた。ポイントを取りたいと思うだけで、具体性もなかった。良いプレーができれば勝てましたけど、そうじゃない時にどうしようもなかったり、ビビッてボールを入れるだけのこともあったんです」
もっとも相手の返球は、ネットを越えることはない。望月慎太郎は駆ける足を緩めると、身体を反転させ、自陣に向け両手で拳を握り締めた。「ウインブルドン」予選決勝で、ドミニク・ストリッカーに7-6(3)、3-6、6-2、6-4のスコアで勝利した瞬間。彼がウインブルドン予選を突破し本戦出場を決めたのは、2年ぶり2度目のことである。
「良いリズムだよ」「力抜いて、前に前に」
予選3試合を通じ、山中夏雄コーチの穏やかな声が、コートサイドから望月へと適宜かけられていた。山中コーチは盛田正明テニスファンドのコーチとして、IMGアカデミーでジュニア時代の望月を指導。6年前には2人で、ウインブルドン・ジュニア部門の頂点に立った、忘れがたい思い出もある。
その山中氏が、“プロテニスプレーヤー”となった望月の陣営に加わったのは、昨年末。もちろん、久々に2人で共有する時間に懐かしさは漂う。だが同時に望月は、「時間が経ち、関係性も変わったので、新鮮な感じもする」と言った。
その思いは、山中氏も同じ。
「以前は保護者的な立場でもありましたが、今は、対等な人間対人間という関係性なので」とコーチは言った。
試合になればもちろん、勝つことも負けることもある。ただ2人が欠かさず継続してきたのは、「コミュニケーションをしっかり取ること」。その中で望月は、「山中コーチは、自分らしさを見いだしてくれる。僕の個性や“人と違うこと”を求めてくれる」と感じていると言った。
では山中コーチが望月に見いだす、「彼らしさ」や武器とは、何か?
「感性の良さですね」と、コーチが言う。
「彼のボールの当たりの良さ、目の良さ、ひらめきなどの感覚...それらを取り戻してほしいと思ってました」
それが、コーチが望月と言葉を重ねる中で、伝えてきたことだという。
このコーチの言葉を望月本人に伝えた上で、「取り戻した自分の武器や“感性”とは何か?」と問うと、彼はじっくり考えつつ、篤実に言葉を紡いだ。
「一番は本当に、自分のテニスで戦えていること。やはりプロになってから、勝ちたい、早く上に行きたいという思いが強くなり、消極的になる場面もコートの中で増えてきた。ポイントを取りたいと思うだけで、具体性もなかった。良いプレーができれば勝てましたけど、そうじゃない時にどうしようもなかったり、ビビッてボールを入れるだけのこともあったんです」