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死の脅迫、犬の糞、ハッキング…。孫楊を糾弾した豪州スイマーの4年間に及ぶ“生き地獄”

THE DIGEST編集部

2020.04.28

昨年の世界水泳で、孫楊(中央)と同じ表彰台に上がることを拒否したホートン(左)。私生活では酷い嫌がらせに苦しめられていた。(C)Getty Images

 オーストラリアの雑誌『Weekend Australian Magazine』が衝撃的なスクープを報じた。

 誌面の特集記事に登場したのは、2016年リオ五輪の競泳自由形400メートルで金メダルに輝いたオーストラリア出身スイマー、マック・ホートンの両親だ。そこで語られたのは、およそ4年間に及ぶ地獄のような日々だった。

 ホートンと言えば、ピンと来るのが競泳界の大物・孫楊とのライバル関係だ。当時20歳の若者はリオ五輪で、ドーピングの陽性反応が出て3か月の資格停止を受けた孫楊を「薬物違反者だ」と糾弾。昨年夏の世界水泳では、同じくドーピング違反疑惑が再浮上していた金メダルの孫楊に抗議の意味を込めて、銀メダルのホートンは同じ表彰台に上がろうとせず、沈黙を貫いた。孫楊が感情的になって文句を言おうが、微動だにしない。世界中のメディアがその様子を大々的に報じた。

 みずからのスタンスを貫いたホートンだが、家族と暮らすメルボルンの自宅では常に恐怖と背中合わせだったようだ。父親のアンドリューさんと母親のシェリルさんが今回、その苦悩の日々を明かし、同誌が次のように全容をまとめている。

「生活が一変したのは、リオ五輪が終わった直後からだった。オーストラリアの学生ビザを持つ中国人留学生たちが、メルボルンまでやって来ては、真夜中に鍋やフライパンで大きな騒音を立てるようになり、そこからどんどん嫌がらせがエスカレート。窓ガラスが投石で割られ、庭の草花が薬物で枯らされ、犬の糞を投げ込まれたこともあった。インターネット上では殺人をほのめかすようなおびただしい数の脅迫を受けており、昨年の(世界水泳があった)夏以降にまた深刻化したという。完全に包囲されたような生活で、家族は精神的に追い詰められていった」

 
 今年2月28日、スポーツ仲裁裁判所(CAS)は孫楊に対して8年間の資格停止処分を言い渡した。2018年9月に孫楊の別荘で実施された抜き打ちドーピング検査で、選手側が検査官の資格と正当性に異議を唱えて、血液検体の容器をハンマーで破壊。これを世界アンチ・ドーピング機関(WADA)が規定違反だと告発し、審理を重ねたCASが厳罰に処したのだ。

 孫楊側はこれを不服とし、最後の望みをかけてスイス連邦最高裁判所への提訴を決定。新型コロナウイルスの影響下で審理はいまだ延期となっているが、資格停止処分が覆る可能性はきわめて低いと見られている。中国の英雄は、事実上の引退を勧告されたのだ。
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「僕は個人的な感情で動いたわけではない」