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今季初優勝を飾ったハミルトン。批判をされても表彰台で突き上げる拳の意味

甘利隆

2020.07.16

今季初優勝時、人種差別への抗議を込めて右手を突き上げるポーズをしたハミルトン。(C)Getty Images

 圧倒的な勝利を挙げ、拳を突き上げた。だが、目を伏せ、頭を垂れるその姿は、喜びを爆発させたというより何かに抗議しているように見えた。

 F1第2戦シュタイアーマルクGPが、オーストリアのレッドブル・リンクで開催され、前回4位に沈んだディフェンディングチャンピオンのルイス・ハミルトンが、ポール・トゥ・フィニッシュを飾った。通算85勝目となる。

 セッティングが決まらず、フリー走行ではやや出遅れたものの、雨に見舞われた予選では、2位に1.2秒の差を付ける驚異的な走りで1位を獲得。決勝レースでも余裕の走りを見せ、2位に入ったチームメイトのバルテリ・ボッタスとワン・ツーフィニッシュを達成した。3位表彰台には2番手スタートのマックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)が入った。

 表彰台でのハミルトンのポーズは、1968年のメキシコシティーオリンピック、陸上男子200mの表彰台で金・銅メダルに輝いたアフリカ系アメリカ選手が示した抗議行為をおそらく意識したものだろう。

 自らも黒人である6度のチャンピオンは「Black Lives Matter」運動に賛同し、開幕戦及び第2戦で仲間のドライバーと共に決勝前のグリッドで膝をつき、人種差別への抗議の意を示している。少年時代に黒人であるが故にいじめられ、それを克服するために空手を習い始めたとも語っている。
 
 ハミルトンはレース後、「私たちは一緒です。チームみんながひざまずいて一緒に学ぶことができ、世界で起こっていることについてオープンマインドになることができたのを見るのは驚くべきことでした。チームのサポートと前向きなメッセージのすべてに感謝します」とコメントを付け、表彰台での自身の様子を捉えた画像をSNSに投稿。

 それに対して「信じられないほどの大きな仲間!」「とても誇りに思うわ!!」「素晴らしいレース、素晴らしいドライバー、素晴らしいロールモデル」といった声が、のべ1万3千件近く寄せられた。また、黒人の女性チームスタッフがこのGPで、F1の歴史上初めて表彰台に立った様子も続けてアップした。

 スポーツの世界に政治を持ち込むことへの反対意見は決して少なくはなく、投稿に批判的なコメントも数多く書き込まれている。しかし、ジャンルを引っ張る存在として、黒人初のF1ドライバーとして道を切り開いてきた35歳は、これからも強い意志で突き進むことだろう。そう、今季走らせる漆黒のメルセデスW11、ブラックアローのように。

文●甘利隆
著者プロフィール/東京造形大学デザイン科卒業。都内デザイン事務所、『サイクルサウンズ』編集部、広告代理店等を経てフリーランス。Twitter:ama_super

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