将棋界の歴史が大きく動いた。
数々の最年少記録を更新してきた藤井聡太七段が16日、『第91期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負』第4局に挑み、3勝1敗で渡辺明三冠を下して棋聖位を獲得した。17歳でのタイトル獲得はもちろん史上初。3日後に迎える誕生日を、一足早く自ら祝って見せた。
その道のりは決して平坦ではなかった。
6月8日にスタートした棋聖戦で初めてタイトル戦の舞台に立った藤井は、“魔王”渡辺三冠を相手でも持ち前の鋭い読みと攻めを繰り出し、堂々の2連勝。一気にタイトル奪取へ王手をかけた。そして、同時期には王位戦も開幕。ここでも藤井は木村一基王位を見事破り、タイトル戦3連勝を飾るが、王手をかけた棋聖戦第3局で渡辺三冠に敗れると、続く王位戦第2局も大劣勢に追い込まれる。
奇跡的な逆転劇で王位戦でも2連勝したものの、その姿は明らかに疲労困憊な様子がうかがえた。無理もない。7月のここまでスケジュールは過酷そのものだった。1~2日に王位戦第1局を地元・豊橋で戦い、6日には東京で順位戦。そして9日には再び東京で棋聖戦第3局、13日からの王位戦第2局は北海道まで遠征し、中1日で本局を迎えたのだから。
将棋の対局は座って行われるので、疲労はないと思う方もいるだろう。しかし、脳内エンジンはフルスロットルで稼働しているため糖分がどんどん失われ、棋士の中には1回の対局で2~3kg痩せる人もいるほど、過酷な“スポーツ”なのである。しかも藤井七段の場合は、タイトル戦という大舞台が連戦しているわけだから、その思考レベルも通常より高いものが要求されるわけで、そのプレッシャーたるや言わずもがなだろう。
果たして本局は、手順の違いはあれど棋聖戦第2局と同じ形で進行した中で31手目、先手の渡辺三冠が9六歩と前例を離れる変化を採用。「この研究手の意味は分かるかな?」と言わんばかりの態度で、序中盤を徐々に支配していく。一方の藤井七段は54手目、9四桂から自陣の飛車、桂を活用しつつ、B面攻撃で質駒だった金を前に繰り出し、じわりじわりと応戦。
藤井七段の挟撃が速いのか、それとも渡辺三冠の中央突破が速いのか。答えは――前者だった。70手目、角が攻めに転じた際に放った8八歩、80手目、直前の角成から狙われていた自陣の飛車を手抜き、3八銀の切り返しで逆に相手の飛車を攻撃。気付けば自玉がピンチになった渡辺三冠は守りに手をいれるが、狙っていた藤井飛車を取りきれず、かえって攻めに使われてしまう。残された道は、藤井七段がミスをするしかなくなった。
しかし、「将棋界最強の終盤力」と恐れられる男が勝利への道を踏み外すことはなかった。110手にて渡辺三冠は投了。これにて、史上最年少17歳でのタイトルホルダーとして、藤井聡太棋聖の名が刻まれることとなった。
終局後、藤井新棋聖の顔に笑みはなかった。さらに強くなろうという、力強い眼差しが盤面に向けられていた。その姿は、すでに王者たる風格を漂わせていた。
構成●THE DIGEST編集部
数々の最年少記録を更新してきた藤井聡太七段が16日、『第91期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負』第4局に挑み、3勝1敗で渡辺明三冠を下して棋聖位を獲得した。17歳でのタイトル獲得はもちろん史上初。3日後に迎える誕生日を、一足早く自ら祝って見せた。
その道のりは決して平坦ではなかった。
6月8日にスタートした棋聖戦で初めてタイトル戦の舞台に立った藤井は、“魔王”渡辺三冠を相手でも持ち前の鋭い読みと攻めを繰り出し、堂々の2連勝。一気にタイトル奪取へ王手をかけた。そして、同時期には王位戦も開幕。ここでも藤井は木村一基王位を見事破り、タイトル戦3連勝を飾るが、王手をかけた棋聖戦第3局で渡辺三冠に敗れると、続く王位戦第2局も大劣勢に追い込まれる。
奇跡的な逆転劇で王位戦でも2連勝したものの、その姿は明らかに疲労困憊な様子がうかがえた。無理もない。7月のここまでスケジュールは過酷そのものだった。1~2日に王位戦第1局を地元・豊橋で戦い、6日には東京で順位戦。そして9日には再び東京で棋聖戦第3局、13日からの王位戦第2局は北海道まで遠征し、中1日で本局を迎えたのだから。
将棋の対局は座って行われるので、疲労はないと思う方もいるだろう。しかし、脳内エンジンはフルスロットルで稼働しているため糖分がどんどん失われ、棋士の中には1回の対局で2~3kg痩せる人もいるほど、過酷な“スポーツ”なのである。しかも藤井七段の場合は、タイトル戦という大舞台が連戦しているわけだから、その思考レベルも通常より高いものが要求されるわけで、そのプレッシャーたるや言わずもがなだろう。
果たして本局は、手順の違いはあれど棋聖戦第2局と同じ形で進行した中で31手目、先手の渡辺三冠が9六歩と前例を離れる変化を採用。「この研究手の意味は分かるかな?」と言わんばかりの態度で、序中盤を徐々に支配していく。一方の藤井七段は54手目、9四桂から自陣の飛車、桂を活用しつつ、B面攻撃で質駒だった金を前に繰り出し、じわりじわりと応戦。
藤井七段の挟撃が速いのか、それとも渡辺三冠の中央突破が速いのか。答えは――前者だった。70手目、角が攻めに転じた際に放った8八歩、80手目、直前の角成から狙われていた自陣の飛車を手抜き、3八銀の切り返しで逆に相手の飛車を攻撃。気付けば自玉がピンチになった渡辺三冠は守りに手をいれるが、狙っていた藤井飛車を取りきれず、かえって攻めに使われてしまう。残された道は、藤井七段がミスをするしかなくなった。
しかし、「将棋界最強の終盤力」と恐れられる男が勝利への道を踏み外すことはなかった。110手にて渡辺三冠は投了。これにて、史上最年少17歳でのタイトルホルダーとして、藤井聡太棋聖の名が刻まれることとなった。
終局後、藤井新棋聖の顔に笑みはなかった。さらに強くなろうという、力強い眼差しが盤面に向けられていた。その姿は、すでに王者たる風格を漂わせていた。
構成●THE DIGEST編集部