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フィギュア

羽生結弦がコロナ禍で培った“逆境を乗り越える力”。そして競技人生をかけて挑むクワッドアクセル

辛仁夏

2021.01.11

全日本ではコロナ禍での孤独な戦いを乗り越え、圧巻の演技を見せた羽生。写真:西村尚己/アフロスポーツ

全日本ではコロナ禍での孤独な戦いを乗り越え、圧巻の演技を見せた羽生。写真:西村尚己/アフロスポーツ

 昨年の初春から始まった新型コロナウイルスの世界的流行の中でイレギュラーなシーズンとなった今季のフィギュアスケート界で、その行動に注目が集まったのが五輪連覇の羽生結弦だった。

 ぜんそくの持病があるためにリスク回避が最重要だったこと、また影響力を持つ自身が大会に出場すれば多くのファンが動いて感染リスクが拡大する懸念があったために「なるべく感染につながる行動はしたくない」との責任感から、グランプリ(GP)シリーズの欠場を早々と決めた。そして約10か月ぶりに公の場に羽生が姿を現したのが、昨年12月下旬に長野のビッグハットで行なわれた全日本選手権だった。

 この全日本選手権を迎えるまでに、シニア11年目、26歳のベテランにとっても、異例のシーズンとなった今季はさすがにきつかったという。練習拠点のカナダに戻ることができず、指導を受けるブライアン・オーサー・コーチがそばにいない中で、1人黙々と練習に打ち込むしかなかったからだ。いつもなら、コーチたちの意見を取り入れながら自分がどう課題にアプローチするべきかを確認しながら取り組んでいくはずの練習ができない状況だった。日本での練習ではサポートしてくれる人はいても、コーチらがいない中での練習の難しさを痛感した。

「悩み始めるとどうしても自分の負のスパイラルに入りやすかった」と過酷で孤独な練習環境を振り返っていた。それでも、ここまでに絶体絶命の危機的状況に何度となく陥ってもその度に奇跡のような復活を成し遂げてきた“絶対王者”の辞書には「諦める」という言葉はなかった。「うまくコントロールする術だったり、1人だからこそ深く分析したりということを経験するいい機会になった」と、様々な経験を生かして逆境を力に変えて乗り切ってきたようだ。
 
 今季は、ショートプログラム(SP)もフリーも新しいプログラムを作った。SPの「Let Me Entertain You」(ジェフリー・バトル振付)は、上下黒のロッカー風の衣装を着て、英国歌手ロビー・ウィリアムズのアップテンポなロック曲を格好よく表現した。フリーは一転、まったく違う和風の曲で「天と地と」(シェイリーン・ボーン振付)だ。水色を基調とした着物風の衣装を身にまとって、琵琶や琴が繰り出す強弱の音色に合わせた圧巻の演技は、戦国武将である上杉謙信の戦いを自身の孤高の戦いになぞらえたものだ。

 そんな2つの演技を見せた全日本選手権で5年ぶり5度目の優勝を合計319.36点で飾った。SPでは1つのスピンが無得点となるミスを出したが、ジャンプはすべて決め103.53点の首位発進。フリーは冒頭の4回転ループをはじめ、得意のサルコーとトゥーループの4回転でもGOE(出来栄え点)で加点されて高得点をマークするなど、「ジャンプをシームレスに跳ぶことができてよかった」と、質の高いジャンプをすべて決め、しなやかなさの中に鋭さと強さを織り込んだ表現で魅了。国際スケート連盟非公認ながらもルール改正後の自己最高得点215.83点をたたき出した。2019年のGPスケートカナダでマークした自己ベスト212.99点を2.84点も上回った。
 

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