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【金鯱賞】大波乱はなぜ起こった?ギベオン陣営の“思い切った戦略”とデアリングタクトが敗れた理由

三好達彦

2021.03.15

”人気の盲点”となっていたギベオンが逃げ切り勝ち。2度目の重賞Vを飾った。写真:産経新聞社

 3月14日、中京競馬場で金鯱賞(GⅡ、芝2000m)が行なわれ、10頭立ての最下位人気だったギベオン(牡6歳/栗東・藤原英昭厩舎)が逃げ切り勝ち。単勝オッズ221.3倍という大波乱を巻き起こした。

 圧倒的な1番人気に推された昨年の三冠牝馬デアリングタクト(牝4歳/栗東・杉山晴紀厩舎)はクビ差の2着に敗れ、3着には6番人気のポタジェ(牡4歳/栗東・友道康夫厩舎)が入ったため、3連単は7830.1倍の高配当となった。

 前日の大雨の影響が残り、「重」となった馬場状態がレースに大きな影響を及ぼすことになった。

 好スタートで飛び出したギベオンが逃げを主張すると、それに続こうとしたサトノフラッグ(牡4歳/美浦・国枝栄厩舎)は無理に競りかけようとはせず、ギベオンはマイペースでレースを進められる理想的な形に持ち込んだ。1000mの通過ラップは1分01秒4と、馬場状態を考えると速めではあったが、これが結果的に絶妙なペース配分となる。

 直線へ向いても気分よく逃げたギベオンは粘りを発揮。ポタジェ、デアリングタクト、グローリーヴェイズ(牡6歳/美浦・尾関知人厩舎)らがギアを上げてゴール前は激しい叩き合いとなったが、ギベオンが外から迫ったデアリングタクトをわずかに抑え切って勝利をモノにした。
 
 なぜこのような予想外の"さらに外"の結果に終わったのか。その一つは、デアリングタクトとグローリーヴェイズに注目が集まり過ぎたため、ギベオンがまったくの"人気の盲点"になっていたことがある。

 ギベオンは3歳の春、毎日杯(GⅢ)とNHKマイルカップ(GⅠ)で2着に入った実績馬だった。そして、その秋に金鯱賞と同じ舞台、同じ距離の中日新聞杯(GⅢ)を勝った経験を持つ"中京巧者"でもあったのだ。

 もうひとつ、陣営の戦略の鋭さも見逃せない。

 藤原調教師が馬場のバイアス(傾向)を見極めるため、レース当日の早朝に馬場を歩いて状態を確認するシーンがしばしば見られるのは関係者のあいだでは知られたことだ。この日、そうした確認が行なわれたかどうかは分からないが、"前残り"で追い込みが利きづらい状態であることを認識していたのは想像に難くない。

 レース後の西村淳也騎手の「先生と相談して、ハナに行こうかという話もありました」というコメントからもその読みが窺える。ちなみにギベオンはここまでの17戦で逃げた経験はゼロ。それだけに、なおさらこの思い切った戦略が光る。
 
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今回の敗戦に対するデアリングタクト陣営の見方