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「5年か10年は戻れない」亡命先へ旅立ったベラルーシ陸上選手が悲壮な覚悟を明かす「私の精神は壊れていない」【東京五輪】

THE DIGEST編集部

2021.08.05

羽田空港で関係者やメディアに手を振るツィマノウスカヤ。ポーランドで夫と再会を果たす予定だ。(C)Getty Images

羽田空港で関係者やメディアに手を振るツィマノウスカヤ。ポーランドで夫と再会を果たす予定だ。(C)Getty Images

 ポーランドへの亡命を希望しているベラルーシ陸上選手、クリスツィーナ・ツィマノウスカヤが8月4日午前、ついに日本を旅立った。およそ17時間後の日本時間5日午前3時ごろ、オーストリアのウイーンを経由してワルシャワ空港に到着したという。

 トラブルが表面化したのは、8月1日の夕刻だった。イスタンブール行きの飛行機に搭乗予定だったツィマノウスカヤが、これを土壇場で拒否して、日本の空港警察に保護を求めたのである。突然のオリンピアンの登場に、マスコミや野次馬が殺到するなど空港は一時騒然。ツィマノウスカヤは、ベラルーシ政府による弾圧からアスリートを守る市民団体BBSFを通してビデオメッセージを発信し、騒動の全容を打ち明けた。

 まず7月31日、ツィマノウスカヤはベラルーシ陸上チームのコーチ陣から理不尽な仕打ちを受けた。翌月曜日に出場予定だった東京五輪・陸上女子200メートルのエントリーをキャンセルし、金曜日開催の4×400メートルリレーに鞍替えするように命じられたのだ。複数のリレーメンバーが出場条件とされるドーピング検査を受けていなかったため、その穴埋めに指名されたという。これにツィマノウスカヤは憤慨。自身のインスタグラム上でコーチ陣の不手際と強引な種目変更を公然と批判した。
 
 すると、ベラルーシ国内でこれが大問題に発展する。種目変更の指示はベラルーシ五輪委員会から出されており、その会長を務めるのは、「欧州最後の独裁者」と称されるアレクサンドル・ルカシェンコ大統領の長男。やがて国営放送『ONT』が「彼女にはチームスピリットが欠けている」と吊り上げ、バッシングのキャンペーンを張っていくのだ。

 インスタグラムのアカウントは削除され、コーチ陣はツィマノウスカヤの部屋に駆け込んで「明らかな政権批判だ!」「荷物をまとめて帰国しろ!」と強要。選手本人から当時の状況を聞いたジャーナリストは「誘拐に近い状況で空港に無理やり連れていかれた」のだと伝えている。

 ツィマノウスカヤは付き添いの関係者がいなくなったのを確認して、空港にいた警察官に保護を求めた。「このまま帰ったら刑務所に入れられてしまう。亡命を手助けしてほしい」と身の危険を訴えたのだ。オーストリアやチェコが候補に挙がるなか、ルカシェンコ政権に懐疑的なスタンスを取るポーランドが支援を約束。BBSFの拠点もあるワルシャワに迎えるべく、急きょビザを発給したのである。
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