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「帰ってきちゃダメ!」ベラルーシ陸上選手の危機を救った祖母の熱弁! 本人は取り残された家族を気遣う【東京五輪】

THE DIGEST編集部

2021.08.06

日の丸デザインのTシャツに「私はただ走りたいだけ」とのメッセージを添えたツィマノウスカヤ。ワルシャワでの会見では笑顔も見られた。(C)AFLO

日の丸デザインのTシャツに「私はただ走りたいだけ」とのメッセージを添えたツィマノウスカヤ。ワルシャワでの会見では笑顔も見られた。(C)AFLO

 祖母のアドバイスがなければ、今頃ベラルーシの監獄にいたかもしれない──。亡命先のポーランドに到着した陸上のベラルーシ代表選手、クリスツィーナ・ツィマノウスカヤはそう振り返る。

 事の発端は、8月1日の夕刻。イスタンブール行きの飛行機に搭乗予定だったツィマノウスカヤは、これを土壇場でキャンセルして、日本の空港警察に保護を求める。突然の五輪代表選手の登場に、マスコミや野次馬が殺到するなど空港は一時騒然となった。その後ツィマノウスカヤは、ベラルーシ政府による弾圧からアスリートを守る市民団体BBSFを通してビデオメッセージを発信し、騒動の全容を打ち明ける。

 7月31日、ツィマノウスカヤはベラルーシ陸上チームのコーチ陣から理不尽な仕打ちを受けた。翌月曜日に出場予定だった東京五輪・陸上女子200メートルのエントリーをキャンセルし、金曜日開催の4×400メートルリレーに鞍替えするように命じられたのだ。複数のリレーメンバーが出場条件のドーピング検査を受けていなかったためで、その穴埋めに指名されたのである。この決定にツィマノウスカヤは憤慨。自身のインスタグラム上でコーチ陣の不手際と強引な種目変更を公然と批判した。

 すると、ベラルーシ国内でこれが大問題に発展する。種目変更の指示はベラルーシ五輪委員会から出されており、その会長を務めるのは、「欧州最後の独裁者」と称されるアレクサンドル・ルカシェンコ大統領の長男。やがて国営放送『ONT』が「彼女にはチームスピリットが欠けている」と吊り上げ、バッシングの一大キャンペーンを展開したのだ。
 
 インスタグラムのアカウントは削除され、ふたりのコーチがツィマノウスカヤの部屋に駆け込んで「明らかな政権批判だ!」「荷物をまとめて帰国しろ!」と強要。「怪我をしたことにしておけ」と指示もされたという。選手本人から当時の状況を聞いたジャーナリストは「誘拐に近い状況で空港に無理やり連れていかれた」と伝えている。

 ツィマノウスカヤは付き添いの関係者がいなくなったのを確認して、空港にいた警察官に保護を求めた。「このまま帰ったら刑務所に入れられてしまう。亡命を手助けしてほしい」と身の危険を訴えたのだ。オーストリアやチェコが候補に挙がるなか、ルカシェンコ政権に懐疑的なスタンスを取るポーランドが支援を約束。BBSFの拠点もあるワルシャワに迎えるべく、急きょ“人道的ビザ”を発給したのである。
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