格闘技・プロレス

消えない背中の傷に流血。なぜ、世羅りさは“女子未踏の領域”となるデスマッチを続けるのか?「耐えて、生き様をみせる」

萩原孝弘

2022.01.27

容姿端麗な見た目とは裏腹にハードな闘いを続ける世羅。「人生を1秒も無駄にしたくない」という彼女は新たな挑戦をスタートさせた。写真:萩原孝弘

 世羅りさは、自身の欲求に愚直に突き進むレスラーである。

 恵まれた体躯を利したパワフルなファイトで何本ものベルトを腰に巻いてきた彼女は、しなやかさと持ち前の美貌とは裏腹に男子とのミクスドマッチやハードコア、デスマッチという世界にも果敢に飛び込んでいく"破天荒さ"を兼ね備えている。

 そんな世羅は2021年12月31日に、プロレス団体「アイスリボン」を退団した。

 9年前に自身がプロレスラーとして産声を上げた舞台を離れた彼女は、柊くるみ、宮城もち、藤田あかね、鈴季すずとともに新年からハードコア&デスマッチユニット「プロミネンス」を本格始動させた。三十路を迎え、「もう長くないプロレスラー生活を1秒たりとも無駄にしたくない。自分の好きなことをやっていく。好きなときに好きなことをやって、悔いのないように生きていきたい」と決意するプロレス人生が新章に突入したのだ。
 

 ユニットとしてのプレ旗揚げは、1月16日に行なわれた。会場に選んだのは、いわゆるプロレス会場ではなく、秋葉原にあるトークライブBARだった。世羅は「リングがなくても、どこでだって試合ができる」という理想を体現するために、あえてそこを選んだ。

 当日になって会場と観客の都合もあり、3枚用意したマットを2枚に減らして試合をするなど"自由"さが全開だった。アイスリボンは、道場を兼ねたリング常設の会場を持つ団体だった。ゆえに常にリングの中で試合ができる今までとは違う環境に身を置いたのがより明確となった。

 無論、試合内容は全てがハードコアマッチ、カードもくじ引きで決定するなどプロミネンスとしての色を全面に押し出した。実際、第1試合のもちvsすずの一戦は、スタンダードなレスリング戦から、すぐさま凶器を持ち出す展開に。第2試合の世羅vs藤田も、同様の展開からなぜかボールと有刺鉄線竹刀で野球対決が始まるなど、斜め上のスタイルへと流れ、目の肥えたプロレスファンも度肝を抜かれた。

 騒音で下の階から苦情が入るオマケも付いたが、"これこそがプロミネンス"という方向性を、世に示すことに成功した初陣だった。
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奥深さと理想を突き詰めるために――。傷だらけのアーティストは進む