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小平奈緒が私たちにくれたもの――「大切な親友」李相花との出会い~地元・長野への変わらぬ想い

矢内由美子

2022.11.01

小平(右)の戦友である李(左)。二人の友情は色あせない。(C)Getty Images

小平(右)の戦友である李(左)。二人の友情は色あせない。(C)Getty Images

 10月22日、スピードスケートの平昌五輪金メダリストである小平奈緒(相澤病院)が、現役最後のレースとなった全日本距離別選手権の女子500メートルを制して有終の美を飾った。

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 チケットは完売し、会場となった長野市のエムウェーブに詰めかけた観客は6085人。新型コロナウイルス感染症対策で声を出しての応援がなかったこと以外は、まさに小学5年生だった小平が五輪を目指すきっかけとなった夢舞台の再現となる熱気だった。

 声の代わりに、ハリセンやバルーンを打ち鳴らす音が小平の“門出”でもある37秒49の渾身の滑りを後押しした。その日のエムウェーブは一日中、温かい空気に包まれていた。スポーツを通じて生み出された優しさがそこにあった。

 ラストレースから5日後の10月27日、今度は都内に場所を移して引退会見が行なわれた。大勢の日本人記者に混じり、会場には韓国とオランダのメディアも取材に来ていた。小平は冒頭の挨拶の最後に、「韓国とオランダからもお越しいただいているとお聞きしているので、一言ご挨拶したいと思います」と言い、照れくさそうに紙を広げ、まずは韓国語を読み上げた。“通訳”も小平自身。

「平昌オリンピックは、私にとって一生忘れられない思い出です。家族、友人、私を支えてくださった皆さんにチャレッソ(よくやった)という言葉を送りたいです。またすぐに韓国に遊びに行きたいです」

 和訳まで自分で読み上げるところに、小平の飾らない人柄が表れていた。(その後、オランダ語でも別の内容のメッセージを読み上げ、自分で翻訳した)
 
 小平と韓国の関係は長い。それを取り持つのはバンクーバー五輪とソチ五輪の金メダリストである李相花(イ・サンファ)だ。思い出されるのは平昌五輪。女子500メートルのレースで36秒94の五輪新記録を出して優勝した小平は、母国開催の五輪で大きな期待を受けながら37秒33で惜しくも2位となり、泣きじゃくっていた李のそばに寄り添い、肩を抱いてこう言った。

「チャレッソ(韓国語で『よくやった』の意味)。サンファ、たくさんの重圧の中でよくやったね。私はまだリスペクトしているよ」

 李は「ナオこそ『チャレッソ』よ」と返した。何年経っても色あせない、五輪史に残る光景だった。
 
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