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フィギュア

「自分の気持ちが壊れていくみたいで」――羽生結弦が表現した“ジレンマ”。プロスケーターと演出家の覚悟を示した90分

湯川泰佑輝(THE DIGEST編集部)

2022.11.05

初の単独アイスショーを終えた羽生結弦。プロスケーターとして第一歩を踏み出した。写真:滝川敏之

初の単独アイスショーを終えた羽生結弦。プロスケーターとして第一歩を踏み出した。写真:滝川敏之

「自分の中では、これから始まる物語に向けてのプロローグです」

 初日の公演後、羽生結弦は真っすぐに、毅然とした態度で前を見据えて答えた。
【PHOTO】プロフィギュアスケーター・羽生結弦の魅力が凝縮された単独アイスショー『プロローグ』
 11月4日、横浜市のぴあアリーナMMで羽生結弦がプロ転向後、初の単独アイスショーを開催。演出も自身が考えた約90分の公演全てを一人で滑り切り、“羽生劇場”に7900人の観客は酔い知れた。

 冒頭から、早くも羽生の拘り演出が炸裂した。暗闇からスポットライトを浴びて羽生が姿を現すと「選手の皆さんは、6分間練習を始めてください」とのアナウンスが流れる。当然ながら、観客はどよめき戸惑う声が漏れた。そして2分が経過した所で、羽生が上着を脱ぐ。露わになったのは、あの伝説のプログラムの衣装だった。

「過去に戻って平昌オリンピックがあって、それからまた改めて今までの自分の人生を振り返って、最終的に北京のエキシビなり、いま現在に至るみたいなことをしたかったので、最初の方に平昌オリンピックの僕の代表曲でもある『SEIMEI』を滑らせて頂きました。6分間練習ということと、アイスショーでは考えられない全部の照明をたいた状態でやるということも含めて自分で考えました」

 冒頭の6分間練習は、羽生プロデューサーとして拘った演出だった。羽生は現役時代さながら『SEIMEI』を全力で演じ切ると、続いて三味線の生演奏に乗りながら『CHANGE』『ロミオ+ジュリエット』と、自身の名プログラムを次々に心を込めて滑った。4つ目に選んだのは、自身の公式ユーチューブチャンネルの「プロローグ」内でスケーティングや振り付けを一部公開した『いつか終わる夢』だった。

 羽生は「自分が滑りながらこの曲を流していた時に、皆さんに好かれていたクールダウンの動きをやった時にピタッとはまったんです。この曲に。その時に皆さんそういえば、クールダウンすごい見たがっていたなって。あれだけで十分満たされるという声を頂いていたことがあったので、それならプログラムにしようと思いつきました」と使用理由を告白。さらに、抱いていた苦しい思いも吐露した。
 
「タイトルも含めて、いろんなことを考えながら作っている時に僕自身の夢って、もともとはオリンピック2連覇というものが夢でした。その後に4回転半という夢を改めて設定して追い求めてきました。ある意味ではアマチュア競技というレベルでは僕は達成することができなかったし、ある意味ではISU(国際スケート連盟)公認の初めての4回転半成功者にはもうなれませんでした。そういう意味では終わってしまった夢なのかもしれません」

「皆さんに期待して頂いているのにできない。だけどやりたいと願う。だけど、もう疲れてやりたくない。皆さんに応援して頂ければ頂くほど、自分の気持ちが疎かになっていき、壊れていくみたいで何も聞きたくなくなって。でも皆さんの期待に応えたい自分の心の中のジレンマみたいなものを表現したつもりです」

 上記のプログラムと、5つ目の『春よ、来い』にかけては、氷上に桜や雪など色鮮やかで幻想的なプロジェクションマッピングを映す画期的な演出も目立った。加えて羽生の表現も観る者の心を浄化させる見事な演技で、ファンの心をガッチリ掴んだ。演技後、観客は総立ちのスタンディングオベーション。会場に響き渡った大きな拍手は、いつまでも彼を称えていた。

「初めてここまで本格的なプロジェクションマッピングを含めて演出としてやって頂きました。皆さんの中でフィギュアスケートのプログラムを見る目がまた変わったと思うし、実際に会場で見る近場の自分、同じ目線から見るスケートと上から見るスケート、カメラを通して見るスケートとでは全く違った見え方がすると思うので、ぜひそういう所も楽しんで頂きたいと思うプログラムです」

 最後に羽生は、プロスケーターとしての“覚悟”と進むべき道を述べた。

「このプロローグを毎日成功させるために努力していくこと、今日は今日で一つ一つのジャンプだったり、演技だったりに集中していったこと。そういったことが積み重ねていって、また新たな羽生結弦というステージにつながっていく。それが積み重ねていくことで、また新たな自分の基盤ができていくと思うので、今できることを目一杯やって、またフィギュアスケートというものの限界を超えていけるようにしたいなという気持ちです。それが、これからの僕の物語としてあったらいいなと思います」

 プロフィギュアスケーター・羽生結弦。その『プロローグ』は、まだ始まりに過ぎない。

取材・文●湯川 泰佑輝(THE DIGEST編集部)

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