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【名馬列伝】強烈な印象を残したダイワスカーレットの強さ! “牝馬の時代”を象徴したウオッカとの「二強対決」を振り返る

三好達彦

2023.02.16

2008年の第53回有馬記念を制したダイワスカーレット。牝馬の時代を象徴する一頭だ。写真:産経新聞社

 2008年11月2日、東京競馬場。あの"伝説の天皇賞(秋)"が行われた日だ。

 二の脚、三の脚を使って逃げるダイワスカーレット。持ち前の切れ味でそれを猛追するウオッカと、同年のダービーを制したディープスカイ。息詰まる激闘の末、3頭がなだれ込むようにゴールする。

【動画】名牝の激闘! ダイワスカーレットvsウオッカの二強対決が話題を呼んだ2008年天皇賞・秋をチェック!
 ターフビジョンに映し出されたリプレイを見ると、ダイワスカーレットとウオッカがほとんど同時に決勝線を通過しているように見える。写真判定に入って10分以上が経過し、詰めかけたファンのあいだでは「同着かも」という声が飛び交い、ビジョンにリプレイが再現されるたびにスタンドからは驚嘆とも感嘆ともつかない声が沸き上がった。

 そして約10数分が経って、ようやく1、2着の馬番が掲示板に表示された。
 てっぺんに示された番号は「14」。
 ウオッカがダイワスカーレットにハナ差で先着していた。一説によると、その差はわずか2㎝しかなかったと言われている。

 筆者は結果を受け、急いで地下にある検量室の前へ駆けつけた。勝ったウオッカ陣営の周りには大きな人の輪ができて近づけなかったが、少し離れた場所にも別の人だかりがあった。ダイワスカーレットの松田国英調教師を囲む記者の輪だった。

 そこで見聞きした様子はいまも強く深く記憶に刻まれている。

 敗者となったにもかかわらず、松田調教師は口元に笑みを浮かべながら言った。

「これでウチの馬が『ただの馬』ではないことがみなさんに分かってもらえたんじゃないでしょうか」

 そのあとダイワスカーレットは、結果としてラストランになる有馬記念(GⅠ)に単勝1番人気で出走。逃げ切りで圧勝し、あらためて性差を超える図抜けた能力の高さをアピールしたのだった。

 ダイワスカーレットの競走生活は、同期のウオッカを抜きにしては語れない。

 方や、日本ダービーを含むGⅠレース7勝のウオッカ。一方、ダイワスカーレットのGⅠ制覇は4つなので、実績面で見劣ると思われるかもしれない。

 しかし、両頭の直接対決の成績を見ると様相が変わってくる。

 2勝2敗、残る1レース(2007年の有馬記念)はダイワスカーレットの2着に対して、ウオッカは11着に大敗している。

 つまり直接対決に限れば、ダイワスカーレットのほうがウオッカを上回っているのだ。

 さらに付け足すなら、ウオッカには思わぬ凡走がたくさんあったが、ダイワスカーレットの全競走成績は12戦8勝、2着4回と、3着以下に落ちたことがないという見事なものだった。
 
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2頭の直接対決の歴史を振り返る