ラグビー

「引退しようと考えていた」リーチ マイケル、奇跡の復活を遂げた35歳の今を物語る同僚、幼馴染の言葉【ラグビーW杯】

向風見也

2023.10.08

日本代表の精神的支柱とも言えるリーチ。サモア戦では最多18本のタックルを決めた。(C) Getty Images

 伝えられたほうが覚えていて、伝えたほうはすっかり忘れている。心に残るメッセージとは、えてしてそういうものだ。

 リーチ マイケルが事実確認を求められたのは、ラグビー日本代表でチームメイトのシオサイア・フィフィタへの言葉についてだ。

【画像】ラグビーワールドカップ2023フランス大会に挑む日本代表メンバー
「え、どうだったかな…。声をかけたのは、確かですけど…」

 リーチ本人はこの調子で、具体的に何と話したのかをすっかり忘れている。

 しかしその話をフィフィタは、時間が経っても思い返すことができる。

 2022年10月1日。日本代表の活動期間中で、フィフィタは先発する強化試合を直前に控えていた。ちょうどプライベートの話題が不本意かつ不可解な形で報じられ、もやもやしてもいた。吹っ切れたのは、リーチのこの言葉のおかげだった。

「きょうはいろんな人が見ている。暴れろ!」

 結局、対戦したオーストラリアAからトライを奪った。簡潔なメッセージで奮い立った瞬間を振り返ると、先輩リーチの洞察力、想像力にただただ敬服するしかない。

 その季節に、友人リーチの躍動感ある姿に目を細めたのはイーリ ニコラス。ニュージーランドはバーンサイドで川遊びやテレビゲームをしてきた幼馴染みだ。

 リーチが2004年に来日したのは、入学する札幌山の手高校へ、もともと在籍していたイーリがリーチも是非と紹介したのがきっかけだった。以後、2人はお互いに活躍の場を変えながらも接点を持ち、昨秋、オーストラリアA戦前の別府合宿で再会した。

 イーリはすでに引退し、三菱重工相模原ダイナボアーズのコーチとして勉強のためにキャンプへ訪れていた。

 視界に映ったリーチは、「移動」が速かった。プレー中の動きはもちろん、練習メニューの合間にグラウンドを「移動」する時の動きが、極端にきびきびしていたのだ。

 2019年のワールドカップ日本大会を前後して、リーチは度重なる怪我に泣いていた。イーリが電話をかければ「身体的に、もう無理」と引退をほのめかされたという。

 2022年の軽快な動きは、いわばどん底からの復活を象徴していた。
 
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「マイケルは、日本のラグビー界には存在していないとダメ」