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【名馬列伝】ウオッカ、アーモンドアイより先に“世界制覇”に届きかけたファビラスラフイン。ハナ差に泣くも牝馬の可能性を開拓

三好達彦

2023.10.10

96年ジャパンC。14番シングスピール(左)と、ゴール前で激しく叩き合うファビラスラフイン(右)。写真:産経新聞社

96年ジャパンC。14番シングスピール(左)と、ゴール前で激しく叩き合うファビラスラフイン(右)。写真:産経新聞社

 ジャパンカップ(GⅠ、東京・芝2400m)が創設されたのは1981年のこと。第1回からメアジードーツ(牝5歳)が、第3回にはスタネーラ(牝5歳)が優勝しているように、牡馬と互角に戦う牝馬は少なくなかった。

 一方、日本の牝馬はどうだったか。勝利を挙げる日本調教の牝馬は第29回(2009年)のウオッカまで待たねばならなかった。そのあとは、第31回(2011年)のブエナビスタから2連覇を果たしたジェンティルドンナ(2012、13年)、第35回(2015年)のショウナンパンドラ、そして第38回(2018年)と第40回(2020年)に2度制覇したアーモンドアイと、次々に頂点を極める牝馬が誕生したのはご存じの通りである。

 オールドファンのひとりとして振り返っておきたいのが、その道程で苦闘を重ねた牝馬たちの歴史である。初めて馬券に絡んだのが第7回(1987年)のダイナアクトレス(4歳)の3着で、勝ち馬からは3/4馬身+1/2馬身(0秒2)の差を付けられてのものだった。

 次に好走したのが第15回(1995年)に出走した「女傑」のニックネームで呼ばれたヒシアマゾン(4歳)だ。勝ったドイツ馬のランドから1馬身半(0秒2)差の2着に入って気を吐いた。

 この2頭の大健闘にファンは大いに胸を熱くしたものである。しかし、その翌年の第16回で、ウオッカの勝利に10年以上先んじて勝ち馬と死闘を演じ、最も勝利に近付いたとされる3歳馬がいたことを忘れてはならない。
 
 激闘を演じた牝馬の名は、ファビラスラフイン。父ファビュラスダンサー(Fabulous Dancer)、母メルカル(Mercalle)、母の父カルドゥーン(Kaldoun)というフランス血統のバックボーンを持つ芦毛馬である。ちなみに「ラフイン(la Fouine)」とは、フランス語でイタチ科の肉食獣である「テン」のことを指し、『獲物を狙う獣』という意味を込めて命名されたとも伝えられている。

 ファビラスラフインはフランス・ドーヴィルで行なわれたセリで社台ファーム代表の吉田照哉に、当時のレートで1000万円ほどの安価で落札された。そして、それまでにも吉田が所有馬を預託していた厩舎に置いて、育成・調教が施されてから日本へと運ばれた。

 仕上がりが遅れて、デビューは3歳に入ってからになったが、彼女はいきなりポテンシャルの高さを発揮する。1996年2月24日のデビュー戦(阪神・ダート1200m)で2着に7馬身差を付けて圧勝。舞台がダートではあったものの、特に記者の耳目を集めた。

 続く500万下(現・1勝クラス)のさわらび賞(阪神・芝1600m)に出走すると、ここでも桁違いの能力を発揮。ほとんど追われることなく、2着に5馬身差を付けて快勝した。

 当時はまだ牝馬クラシックが外国産馬に開放されていなかったため、ファビラスラフインはこの年に創設されたNHKマイルカップ(GⅠ、東京・芝1600m)を頂点とする春の3歳短距離路線で主役級の評価を受けるようになった。

 そして、大目標であるNHKマイルカップのプレップレースであるニュージーランドトロフィー4歳ステークス(GⅡ、東京・芝1400m)に出走したファビラスラフインは、「重」となったタフな馬場状態も苦にせず、好スタートから先頭を奪うと力強く脚を伸ばし、2着に1馬身3/4の差を付けて鮮やかな逃げ切り勝ち。デビューから無敗の3連勝で重賞初制覇を遂げた。

 迎えたNHKマイルカップ。単勝オッズ2.3倍の1番人気に推されてGⅠの舞台に臨んだファビラスラフインだったが、2~3番手を進んで直線へ向いたものの、府中の坂の途中から徐々に失速。ずるずると位置を下げて、14着に敗れるという残念な結果に終わった。

 このレースは1000mの通過ラップが56秒7という異例のハイペースで進んでおり、それを2番手で追いかけていたのが最後に堪えたのではないかと見られている。勝ったタイキフォーチュンの走破タイム(1分32秒6)は、2004年にキングカメハメハ(1分32秒5)に破られるまでレースレコードだったこともあり、当時としては超高速決着だった。
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