夏場をじっくりと立て直しにあてたファビラスラフインだったが、仕上げに手間取ったこともあり、この年に創設された秋華賞（ＧⅠ、京都・芝2000ｍ）へは直行で出走することになった。

　秋初戦の彼女の評価は軒並み低いものだった。NHKマイルカップの惨敗以来となる“ぶっつけ”のローテーションや、初の2000ｍ戦となる距離適性への疑問などがウィークポイントと見なされ、オークスを圧勝したエアグルーヴがいたにしろ、春とは打って変わってファビラスラフインの秋華賞での評価は単勝オッズ18.8倍の５番人気に留まった。

　しかし、血統面では距離延長に不安はなく、NHKマイルカップの敗因もはっきりしていた。そしてまた、ひと夏を越した春のアイドルホースは、記者やファンの想像を上回る成長を遂げていた。
  　新たに鞍上へ迎えた松永幹夫とのコンビで抜群のスタートを切ったファビラスラフインは、外からじわじわと位置を上げて３～４番手に付けると、軽快に脚を伸ばす。そして、激しく鞍上の手が動くエアグルーヴをよそに、第３コーナーから絶好の手応えで２番手の外に付けて直線へ向いた。

　すると、すぐさま逃げ馬をとらえて先頭に躍り出ると、あっという間に後続を突き放し、追い込んできたエリモシックに１馬身半差を付けて優勝。あまりにも鮮やかな復権を遂げるとともに、ＧⅠウィナーの座に就いた。

　時代を考えると、通常なら次走はこの年から３歳と古馬を含めての『クイーン』を決めるレースへと衣替えしたエリザベス女王杯（ＧⅠ、京都・芝2200ｍ）へ進むところだろう。ところが、ファビラスラフインの陣営は敢えて格上であるジャパンカップへの参戦を表明する。特に、オーナーサイドがいかにこの馬のポテンシャルを高く評価しているのかが分かる、果敢な判断だった。

　当時は世界最高峰のフランス・凱旋門賞を制したエリシオ（フランス・牡３歳）や、吉田照哉が共同馬主であった「キング・ジョージ」勝ち馬のペンタイア（英国・牡４歳）などがジャパンカップに参戦表明していたこと。さらに、歴戦の日本調教牝馬が戦績で劣ることもあって、ファビラスラフインは単勝７番人気の伏兵と扱われた。

　だが、この大舞台で彼女は観衆の度肝を抜く一世一代の激走を披露することになる。