ラグビー

「日本に長く住みたい」衝撃の流血ショットで話題となった南アフリカ「13番」の日本愛とチーム愛【ラグビーW杯】

向風見也

2023.10.23

南アフリカの13番の位置を担うクリエル。(C) Getty Images

 29―28。16―15。

 負けたら終わりのラグビーワールドカップにあって、準々決勝、準決勝を、続けて1点差で制した。ピンチを何度も切り抜けた。南アフリカ代表はこの秋、2大会連続4度目の世界一に王手をかけた。

 殊勲者のひとりはジェシー・クリエル。故障のルカニョ・アムに代わって正アウトサイドセンターとなった29歳は、特に準々決勝で光った。

 現地時間10月15日、パリのスタッド・ド・フランス。相手は開催国のフランス代表だった。クリエルは前半29分、チェスリン・コルビのトライをアシストした。何より防御で魅した。
 
 後半5分頃だった。折しも味方にイエローカードが出て数的不利を強いられ、かつ自陣ゴール前にくぎ付けとなっていた。

 ここでクリエルは防御ラインを整え、接点から球が出た先へ鋭く飛びかかった。捕球役へ圧をかけた。攻防の境界線を押し上げると、別の仲間がペナルティーキックを獲得した。

 直後の7分に再びピンチを迎えても、持ち前の危機管理能力を活かした。

 敵陣10メートルエリア右のスクラムから展開されると、防御を突破してきた相手の走路を先回りした。自陣中盤で向こうの走者に追いつき、仕留め、すぐに起き上がって左にできた味方の守備網の後ろをカバーした。

 試合終盤にも、敵陣で右大外のスペースを埋めながら好タックルを放った。

 準々決勝でのタックル成功数は、大会のメディアゾーン上の統計では両軍通算2位タイとなる13本。公式アプリによれば、同単独トップの14本だ。

 何より生々しい記録は、チームの公式インスタグラムに刻まれている。右のおでこ、目の脇から流血するクリエルの顔写真がアップされ、戦いの険しさを表していた。

 本人は話す。

「13番が自分にとってはベスト。13番のほうがチームに貢献できると信じている」

「13番」ことアウトサイドセンターの位置は、守りの負担が大きい。

 両タッチライン際のウイングが後方でキックに備えることもあるため、そのひとつ内側のアウトサイドセンターは前衛の防御網にあって広範囲をカバー。相手の攻撃ラインとの間合い、人数のバランスを見て、一気に間合いを詰めるか、待ち構えて仕留めるかの判断を瞬時に下す。

 攻める側は大外の位置に強く、速い走者を並べがちなだけに、アウトサイドセンターには高い身体能力も請われる。自らがその適任者であると、クリエルはフランスで証明している。

 ワールドカップは通算3度目の出場。頂点に立った日本大会を経て、こう野望を口にしていた。

「日本であったワールドカップはキャリアにおけるハイライト。これまで2回W杯へ出場していて、3回目も当然やりたい。周りの人たちに誇りに思ってもらえるようなプレーがしたい」
 
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