格闘技・プロレス

栄華を極めたタイソンの悲劇的なKO負けも...興行面では大成功。34年ぶりの“ドーム決戦”は井上尚弥にどんな付加価値をもたらすのか?

橋本宗洋

2024.03.12

ボクシングではタイソン(右)以来、34年ぶりのドーム開催が決まった井上(左)。写真:福冨倖希、AP/アフロ

 ボクシング界の至宝・井上尚弥が"ドーム進出"を果たす。

 バンタム級に続きスーパー・バンタム級でも主要4団体王座統一を成し遂げた井上。初防衛戦として決まったのが5月6日のルイス・ネリ戦だ。会場は東京ドーム。同会場でのボクシング興行開催は、実に34年ぶりとなる。

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 34年前の東京ドームで行なわれたのは、マイク・タイソンvsジェームズ・バスター・ダグラスの世界ヘビー級タイトルマッチだ。1990年2月11日のことである。

 3団体統一王者のタイソンは37戦全勝にして33KO。まさに無敵の状態だった。

 ヘビー級としては小兵ながらスピードと連打は圧倒的。日本でも外国人ボクサーとしては異例の人気を誇った。特にボクシングに興味がなくてもタイソンは知っている、そんな状況だ。ダグラス戦も、2度目の日本での試合。前回(トニー・タッブス戦/88年3月)も東京ドームが満員になった。

 相手は無名のダグラス。ボクシングファンの注目は、むしろその後に予定されていたイベンダー・ホリフィールド戦に向いていたと言ってもいい。

 絶頂期のタイソン自身にとっても、ダグラスは特に意識する相手ではなかったのだろう。来日するとバラエティ番組に出演するなど、とても試合前のボクサーとは思えなかった。タイソンに寄り添うプロモーター、ドン・キングの独特なヘアスタイルを覚えている人も多いだろう。

 スパーリングではダウンも喫しているタイソン。栄華を極め、生活自体が荒れていた。そういう中で行なわれたドーム決戦。タイソンは序盤から精彩を欠く。8ラウンドにダウンを奪ったものの、9ラウンドにダグラスの猛反撃を食らう。そして10ラウンド、マットに崩れた。口から外れたマウスピースを探る姿は、それまでの活躍ぶりからすると信じられないほど悲劇的だった。

 キャリア初黒星にして衝撃的KO。ここからマイク・タイソンというファイターのイメージも大きく変わっていくことになる。ともあれ興行的には大成功だ。タイソン初の敗北という点で歴史に残るドーム興行にもなった。ちなみにこの大会では、前座試合にデビュー2戦目の辰吉丈一郎が出場している。彼が世界タイトルを獲得するのは翌年のことだ。
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