■世界を目指す箱根ランナーについて

　今回の記録について言えば、ずっと向い風で、記録を出せる環境ではなかった。だいたい行きは追い風で、帰りは向い風になることが多いけど、今年は往復とも向い風だったよね。だから記録を狙うには厳しい条件だったけど、２区のイエゴン・ヴィンセント選手（東京国際大）があの向い風でも平気で区間新記録を出した。上りになってもほとんどペースが変わってなかった。あれがやっぱり世界の走りだな。学生の走りではなく、オリンピックを狙う世界のトップ選手の走りをしていたね。

　同じく２区を走った田澤廉選手（駒澤大）は、今年は本調子じゃなかったと思う。だから本人は控えたのだろう。彼は昨年に区間新を出した相澤晃選手（元東洋大）ぐらいの力はこれからつけていくと思う。世界を見据えているなら、相澤選手の記録を抜くぐらいの気持ちが必要だね。今年のヴィンセント選手の記録は1時間5分49秒。相澤選手の記録より、10秒も越えていない。だから物凄い記録ではない。田澤選手が本当に調子がよければ、ヴィンセント選手のペースに付いて行けたと思う。ただ自分の調子がよくないこと分かってるから、無理をしなかったのだろう。
  　多分、日本選手権で力を使い果たして、その後あまり練習をしていないと思う。でも私は、それではダメだと思っているわけ。これから世界を目指すなら、両方をしっかり走らなければいけない。

　仮にヴィンセント選手に付いていってたら、田澤選手はブレーキをしていたかもしれない。そういう意味では自分の身体をよく分かっている。いつでも調子がいいなんてあり得ないから、自分の調子を見極めてペース配分をすることは大事。その状態ではよく走ったと思います。

　今後12月に日本選手権があったとしても、世界を目指すにはトラックでどーんと記録を出して、箱根駅伝で区間新記録とは言わないまでも、それに近いぐらいの記録で走るぐらいの力をためないと、世界には追いつかないと私は思うし、監督にもそういう風に指導してもらいたい。それがオリンピック目指すランナーの宿命だと思う。

取材・文●山本祐吏（THE DIGEST編集部） 

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