もっとも興味深かったのは、選手の“経験”について言及したときだ。ズシンと重低音で響いた。

「私がどんな選手を選んでいるか。自信を持っていて、情熱的で才能に恵まれ、十二分に走れて、リーダーシップも備えている。そして彼らはみな、経験が豊富だ。私がここで言う経験とは、勝利の経験だ。長い時間をかけて積んだだけのものは、経験とは言わない。勝たなければ学べないものがある。どれだけ学べる経験をしているかが大事なんだ。ここにいる選手たちはみな、その経験を携えている」

　誰にでも言える台詞ではない。

　準決勝の相手はイングランドに決まった。敵将のエディー・ジョーンズがアイルランド戦を前に「ニュージーランドとの対戦を希望する」と話したことを受け、コメントを求められた。

　するとハンセンHCは「私も楽しみにしているし、大きなチャレンジだと考えているよ」と答えつつ、「でも準決勝の話をする夜ではないだろう。いまは勝った喜びを噛み締めたい。ニュージーランドの国民とともに誇りを感じ、楽しみたいんだ。だからイングランド戦のことは明日までは考えないよ。考えてもいないので、答えようがないね」と素っ気なかった。 　就任から丸８年が経過した。世界を席巻してきたスーパースターたちは、この理論派の下で結束し、一枚岩の闘う集団であり続けている。

　名将は大会後の勇退を表明した。これもまた、オールブラックスを頂点へと駆り立てる原動力となっているのだ。

取材・文●川原崇（THE DIGEST編集部）

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