小柄ながらも前走より８キロも馬体重を増やして、いよいよ充実気に入ったサイレンススズカは1998年５月、中京競馬場へと姿を現す。歴戦の重賞ウィナーが顔を揃えた金鯱賞である。

　いつもどおり好スタートからスムースに先頭を奪ったスピードスターは向正面では２番手以下に数馬身の差を付けて軽やかに逃げる。まったく無理することなく直線へ向いた、その直後のこと。後続がラストスパートに入るが、鞍上の手がまったく動かないまま、どんどんと後続との差を広げていくサイレンススズカ。歓声と拍手で騒然とするスタンドの前を軽やかに駆け抜けてゴールしたときには、２着になんと１秒８もの大差を付けていたのだ！　走破タイムは１分57秒８というコースレコードだった。

　武豊はレース後、「今日のサイレンススズカなら、どんな馬にも負けないでしょうね」と最上級の賛意を表した。

　そしてサイレンススズカは、乗り馬の関係で武豊から手綱を託された南井克己とのコンビで、次走の宝塚記念を逃げ切って快勝。ついに初のＧⅠ制覇を成し遂げた。
  　1998年10月11日、ＧⅠデーでないのにもかかわらず、東京競馬場には13万人を超える観衆が詰めかけていた。最強・最速のスピードスターの評価を決定的にしたサイレンススズカが秋初戦を迎えるその舞台に、無敗でＧⅠを制した３歳の外国産馬２頭、エルコンドルパサーとグラスワンダーが参戦。この３頭が激突する毎日王冠（ＧⅡ）は尋常ではない熱気に包まれていた。

　３歳馬の挑戦を受ける立場になったサイレンススズカだが、この日も武豊を背に思うがままに逃げを打つ。1000ｍの通過が57秒７という猛烈なハイラップを刻みながら直線へ向くと、グラスワンダーが２番手に上がったものの力尽き、そこへエルコンドルパサーが追い込んで２番手に上がる。しかし、後続の追撃はまったく届かず、最後まで脚色を鈍らせることがなかったサイレンススズカはエルコンドルパサーに２馬身半の差を付けて圧勝を飾った。

　エルコンドルパサーはそのあとジャパンカップ（ＧⅠ）を制し、翌年にフランス遠征でサンクルー大賞（ＧⅠ）を勝って、凱旋門賞（ＧⅠ）でも２着に入賞した。グラスワンダーも有馬記念（ＧⅠ）を連覇し、宝塚記念（ＧⅠ）を勝っているのはご存じのとおりだ。このレースが”伝説の一戦”と呼ばれる理由はそこにある。

　レース後、勝者は迷わず芝コースで踵を返してスタンド前に向かい、ＧⅡ戦としては異例のウイニングランを披露。観客の熱狂は最高潮に達した。そして結果として、サイレンススズカにとってもこれが競走生活の頂点となってしまうのだった。